最愛とは、ふつう子や伴侶の掛かり言葉として使われるので、六十代になった男にとって、最愛という表現に叶いそうなミュージシャンはなかなか釣り針に引っかからない。
十日間くらい思い悩んだ末、記憶の淵からこそこそ現れたのは、十代の美空ひばり。いや、小林幸子や瀬戸の花嫁の小柳ルミ子、都はるみもかわいらしかった。はたまた、ジャクソンファイブ時代のマイケル? こう書いていること自体、なんだか照れくさい。
私にとってミュージシャンとは、持って生まれたキャラクターと斬新な言葉で、世間一般の決まり事に抵抗し、自由を勝ち取っていくというようなイメージなのだ。
最愛とは別な話だが、つい先日、佐野元春が新しさとは何かについてこう言っていた。
「おとなたちに一撃を食らわせろ、という気持ちをいつまでも持ち続けていたい、おやじの齢になっても」
年を取れば、若いころの気持ちを鮮明に思い出すようになると言うが、その時代の自身を取り戻すことが、老いに打ち勝つ最良の方法なのでは。それこそ最愛のミュージシャンが見つかるかもしれない。(2014.8.14)