まず、タイトルですが、惜しい!回文のお好きな平田俊子さんとしては!しかし、いろいろと考えましたが、回文は無理のようですね。
日常を旅に変えてしまうバスに乗って、「バス」だけのエッセー集です。すばらしく楽しい。私のバス体験と言えば、最寄り駅までの循環バスくらいしか思いつかないし、旅をしていても、駅から目的地までが遠い場合に便宜上乗車するくらいのもの。平田さんの場合は「バスに乗ること」そのものが旅であり、日常を離脱する夢のお馬車でもあるらしい。
バスに吸い込まれるように乗る度に、乗客や窓から見える風景、運転手さんの様子などを含めて、そこには平田さんの優しい視線がいつでも注がれ、小さな旅物語が生まれてくる。優しい魔女の視線。そしてその風景を飛び越えて、優しい魔女はその先に新しい物語を誕生させて下さる。
これが新幹線や飛行機、電車や地下鉄では面白くないだろう。バスの速度と窓から見える季節ごとの風景、それに乗り降りする人々、バスの停車場の名前、バスの走る道路の名前などなど、歴史を歩くことさえ可能なバス!
(2013年 第一刷 幻戯書房刊)