阿部ブログ

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米国防総省の年次報告書「中国の軍事力2018」

2018年08月18日 | 雑感
米国防総省の年次報告書「中国の軍事力2018」Military and Security Developments Involving the People’s Republic of China 2018

米国は、中国に対し輸入関税、及び対米投資制限など対中国に対する対抗措置を取っている最中に米国防総省が、米連邦議会に中国の軍事力に関する年次報告書を提出し公開版を公表した。
2018年の年次報告書によれば、中国陸軍は、後方兵站部隊などを中心とした30万人規模の兵力削減を実施しつつ、諸兵種連合部隊でより実践的な統合演習により兵士の練度を高める。削減した兵力は、武装警察部隊等に転換する。また、中国版海兵隊と言える海軍の陸戦隊(People’s Liberation Navy Marine Corps)の戦力を2020年までに7個旅団、兵員3万人規模に拡大する。
空軍に就いては、核攻撃任務が付与され、長距離爆撃機による偵察・攻撃任務を充実させており、南シナ海、東シナ海、台湾一周偵察や第一列島線を超える作戦が可能とする。空軍部隊は、台湾の他、グアムなどの米軍基地や在日米軍/自衛隊を目標として訓練を行っており警戒レベルは高まっている。また現在、開発中のステルス戦闘機を実戦配備させ、新規にステルス長距離爆撃機の開発をスタートさせ、2030年までに核兵器搭載型の爆撃機を完成させ作戦運用する。他方、ロシア同様に産業スパイやサイバー攻撃による軍事技術等の窃盗など非合法活動を継続し、海外企業への直接投資や買収による技術獲得も並行して実施すると言いうような内容である。
この年次報告書を読んで感じる事は、戦略弾道ミサイル、戦術ミサイル、巡航ミサイルの配備数を増やし、抑止力と反撃能力のレベルを維持しつつ、ステルス戦闘機など航空機の性能向上と最新鋭の防空システムの導入、電子戦、サイバー戦、宇宙戦の能力を向上させ、ロシアを抜いて世界第二位の軍事大国になる勢いで軍拡を行うと言う強い国家意思である。
中国軍の軍事戦略の根幹は「高列度戦に短期間で勝利」することであり、開戦劈頭、可能な限り軍事システムを麻痺させ、大量のミサイル等の火力で敵戦力を圧倒することにある。仮に、人民解放軍が台湾に侵攻する際には、実際に行われだろうと言われている。これには徹底的に生存性を高め、反撃能力を残存させることが重要となる。日本の場合、全国に原子力発電所があり二次系の冷却システムがミサイルや破壊活動等で完全に破壊されると、最終的には福島第一原発と同様にメルトダウンに陥るので、憲法云々の前に現在抱えている国家的リスクを検討し対策せねばならない。
いつまで中国経済が正常でいられるかは判然としないものの、当面は中国の軍事拡張は続くのだろう。

○主要参考文献(含むURL):
Military and Security Developments Involving the People’s Republic of China 2018
https://media.defense.gov/2018/Aug/16/2001955282/-1/-1/1/2018-CHINA-MILITARY-POWER-REPORT.PDF 

China Security Report(National Institute for Defense Studies:NIDS)
http://www.nids.mod.go.jp/publication/chinareport/pdf/china_report_EN_web_2018_A01.pdf 

H.R.5515 - John S. McCain National Defense Authorization Act for Fiscal Year 2019
https://www.congress.gov/bill/115th-congress/house-bill/5515 

米国は宇宙軍を創設する

2018年08月18日 | 雑感
米国では、4月に入って宇宙における脅威を報告したレポートが相次いで公表された。何れも中国、ロシアなどが推進する宇宙での軍事技術開発に警鐘を鳴らす内容である。
Center for Strategic and International Studies (CSIS)は、「Space Threat Assessment 2018」を公表した。この報告書は公開情報に基づいて作成され、中国、ロシア、イラン、北朝鮮などの宇宙兵器開発の状況をレポートしている。Secure World Foundation(SWF)の「Global Counterspace Capabilities」は、GNSS(Global Navigation Satellite Systems)ジャミングやレーザー兵器、サイバー攻撃など、直接ターゲットを破壊せずとも機能不全にする、所謂「non-kinetic」な方法がトレンドになっていると報告している。

両報告書によれば、中国は、2007年に実施した退役した気象衛星を破壊する実験で、世界から非難されても対衛星兵器(direct-ascent anti-satellite(ASAT)weapons)の開発を鋭意進めていると指摘。特に、低高度軌道(Low-Earth Orbit:LEO)衛星に対する攻撃能力を獲得したとみられ、移動式の対衛星破壊ミサイル発射システムも2020年以降に実戦配備されるだろうと予測。しかし、中高度や静止軌道衛星に対する衛星破壊兵器は、まだ実験段階にあるとの評価。ロシアに関しては、ソビエト崩壊後の宇宙システムを復活させる努力を続けているが、脅威となるような対衛星破壊能力は持っていない。しかし、ロシア軍は、電子戦能力の強化を継続して行っており、宇宙空間での電子戦能力も充実しているとの評価。特に衛星本体や地上局に対する電子戦やサイバー攻撃が行える能力を保持しているとし、ロシア国防省は移動式レーザーシステムを既に受領している。

両報告書とも、まだ、宇宙での優位性は米国にあるとしているが、中国・ロシアの宇宙における技術開発で特に警戒するべきなのが、RPO(Rendezvous and Proximity Operations)であるとしている。これはターゲットとなる衛星の軌道に移動しランデブー、そして接近する衛星の運用技術であり、RPOは衛星を直接破壊する際の中核技術である。このRPOをロシアや中国は、繰り返し宇宙空間でオペレーションを行っており、最近では2017年10月にロシアが偵察衛星だとしている複数の衛星が連携しつつRPOを行い、米国防総省は懸念を表明している。

やはり宇宙における軍拡で一番勢いのあるのは中国である。2018年7月30日、長征3Bロケットで中国版GPSである北斗測位衛星33号機と34号機の2基をXichang Satellite Launch Centerから打ち上げた。(日本版GPSである準天頂衛星は4基打ち上げられているが、3号機が故障しており回復不能とのことで、11月のサービス開始に暗雲が垂れ込めている。)翌31日には、Taiyuan Satellite Launch Centreから解像度10cm以下と言われる偵察衛星を打ち上げている。8月に入ってからはChina Academy of Aerospace Aerodynamicsが開発した極超音速飛翔体Starry Sky2の発射実験が行なわれ、飛翔体は高度30kmに到した後、最高速度マッハ5.5を記録した。Starry Sky2が実戦配備されると米軍や日本にとっては防御が非常に難しく大きな脅威となる。

中国やロシアの宇宙分野での活動を座視できない米国は、陸・海・空・海兵隊に次ぐ第五の宇宙軍を創設する。これは1947年に米空軍が創設されて以来だが、ボーンアゲイン・クリスチャンとして有名なペンス米副大統領が、8月9日、国防総省で演説した際、2020年までに大将を最高指揮官とする統合戦闘コマンド「宇宙軍」を立ち上げると発言した。7月24日の上下院軍事委員会は、トランプ政権による2019年度・国防歳出法の宇宙軍創設予算の計上を否認し、米空軍は宇宙軍創設に絶対反対の立場を崩していないが、国防総省は2018年中に宇宙軍創設関連法案の議会提出準備を行い、国防総省内にUS Space Command、Space Operations Forceと、Space Development Agencyを設置し、専門の調達組織も立ち上げる。8月13日、トランプ大統領が、訪問先のFort Drumで、2019年D度・国防歳出法に署名した。これで米軍の宇宙戦力と宇宙関連資産を宇宙軍が指揮・統括することになる。現在の空軍のAir Force Space Command(AFSPC)は、宇宙軍に統合される。

この宇宙軍創設で一番注目すべきは、その調達組織であるSpace-Procurement Agencyで、宇宙軍の作戦に必要な軍需物資を調達する組織で、ケネディ政権でのマクナマラ改革に匹敵するような野心的な改革を行うことが期待されている。拠点は、コロラド、カルフォルニア、フロリダ、ハンツビル等で、全軍種に関わる宇宙関連調達を監理・監督する。Space-Procurement Agencyは、現在、米空軍輸送コマンドが検討している、宇宙空間に軍需物資を事前集積する構想を引き継ぐ。この構想は、軍事作戦時に、宇宙から迅速に軍需物資を世界各地に送り届けると言う画期的なもので、空輸で10時間必要な軍需輸送が、宇宙からだと30分で投入可能だとしている。この事前集積は、各種補給品・弾薬・食糧・水だけでなく装甲車など戦闘車両も宇宙に事前集積する方針で、既にSpaceXやVirgin Orbitとも意見交換を行っており、宇宙空間の物資を地上に迅速に提供する方法の具体化を模索し始めている。トランプ政権による宇宙軍創設とイノベーティブな取組に民間企業としても注目するべきであろう。

○主要参考文献(含むURL):
★「Space Threat Assessment 2018」
Center for Strategic and International Studies (CSIS)
https://www.csis.org/analysis/space-threat-assessment-2018 


「Global Counterspace Capabilities: An Open Source Assessment」
https://swfound.org/media/206118/swf_global_counterspace_april2018.pdf 

★ペンス副大統領の演説
Remarks by Vice President Pence on the Future of the U.S. Military in Space
The White House, August 9, 2018
https://www.whitehouse.gov/briefings-statements/remarks-vice-president-pence-future-u-s-military-space/ 

★ファクトシート
Fact Sheet
President Donald J. Trump is Building the United States Space Force for a 21st Century Military
The White House, August 9, 2018
https://www.whitehouse.gov/briefings-statements/president-donald-j-trump-building-united-states-space-force-21st-century-military/ 

★国防総省が議会に提出した宇宙担当部局の組織や体系に関する報告書
Final Report on Organizational and Management Structure for the National Security Space Components of the Department of Defense
U.S. Department of Defense, August 9, 2018
https://media.defense.gov/2018/Aug/09/2001952764/-1/-1/1/ORGANIZATIONAL-MANAGEMENT-STRUCTURE-DOD-NATIONAL-SECURITY-SPACE-COMPONENTS.PDF  (PDF 102 KB, 15 p.)

★シャナハン国防副長官が行ったメディアとの質疑応答
Media Roundtable on Space Force with Deputy Secretary Shanahan
Deputy Secretary of Defense Patrick M. Shanahan
U.S. Department of Defense, August 9, 2018
https://www.defense.gov/News/Transcripts/Transcript-View/Article/1598488/media-roundtable-on-space-force-with-deputy-secretary-shanahan/source/GovDelivery/ 

★米上下両院は、FY2019国防歳出法を可決。総額7,170億ドル。上院87:10、下院が359:54と言う結果。(国防総省2018/8/1発表)