机の引き出しを整理していたら昔会社で使っていたUSBメモリーを発見。
何を入れていたんだっけ、と開いてみたら、
「いずれブログを始めたらアップしよう」とメモしたネタがありました。
今読み返してもまぁ、まぁ、いけそうなのでアップします。
何年も前の話、もう里では桜が終わってしまった、5月上旬、
まだいささか撮りたりなかった私は、喜多方市山都町
へと車を走らせていた。
山都町は標高が市の中心部より若干高く、桜の開花が遅いのだ。
町内を探してうろうろ探していると、ちょうど良い桜の木をみつけた。
そこは、緩い斜面に段々畑がひろがり、その中にポツンと
1本だけ桜の木があって、それがまさに今、満開なのだ。
桜の薄桃色にまわりの緑、近くには電線も民家もなく
ぜっこうの被写体であった。
私は、迷わずこの桜にきめた。
三脚を桜の正面にセットしカメラをのせて「いざ」と言う時、
近くにおばあさんが畑仕事をしているのに気がついた。
たぶん、この畑と桜の木の持ち主なのだろう。
私はカメラのフレームから出て行ってくれるのを待った。
ところが、ところがである。
よけてくれるどころか、かえって桜の木に近づいているではなか。
しかも、こっちを気にしている素振りもある。
これは?無許可で撮影してるから、いやがらせか?
私は三脚にカメラを固定したまま、おばあさんのところへ行った。
「おはようございます、みごとな桜の木ですね」
「そうでしょう!へへへ・・・」
「写真を撮ってもいいですか?」
「どうぞ、どうぞ」
おばあさんは満面の笑みを浮かべて、答えた。
なんだ、怒ってるんじゃないのか。
でもまあいいや、これで仁義も通したし、どいてくれるだろ。
ファインダーを覗いた私は、再びいらつくことになる。
どいてくれないのだ!婆さんが!
おまけに畑仕事も始めやがった!
しばらく待っていれば、どいてくれるのか?
「どいてください」と言ってくるかな。
色々考えているうちに、すっかり私のモチベーションは下がってしまった。
もういいや!と思い、婆さんが入ったままの状態で私は2~3枚
シャッターを切り、早々と帰り支度を始めた。
さて、婆さんにあいさつでもするか。
機材を抱えて私は婆さんのところへ行った。
「どうも、ありがとうございました。」
「いい、写真撮れたがよ?」
「はい」
振り返って帰ろうとする私に婆さんが言った。
「おら家さ、よってがんしょ(私の家に、おいでなさい)」
ん?お茶でも出すってか?
時間的にそんなに急いでいたわけでもないので、私は婆さんの
家におじゃますることにした。
座敷に通された私に婆さんは案の定、お茶をだしてくれた、が・・・
周りの壁を見て、愕然とした。
壁一面、額に入った桜の写真だらけなのだ!
しかも、すべてに婆さんが「入っている」。
驚いている私に婆さんは写真の一枚を指差して言った。
「これはプロの〇〇さんが撮ったもの」
なんでも、桜の写真だけでは弱いから、ぜひおばあさんも写真に
入ってほしいといわれたそうだ。
婆さんはそこで、この桜の写真には自分が不可欠と思い込んで
しまったらしい。
以来、度々やってくる桜撮りアマチュア写真家に自分も撮らせて、
その写真をゆずってもらっているらしい。
自分だけが見つけた秘密のポイントだと思っていた所が、けっこう有名
な所だったという「がっかり」と、まるで女優きどりで写真の演技を語る
婆さんの「うんざり」で、もうどうしようもなくつらくなってきた。
これは逃げるにかぎる。
そう思った私は、何と言ったか覚えていないくらいのいい加減な理由で
その場を立ち去ったのである。
写真をあげたのかって?もちろん、あげてないです、はい。