小林英樹「完全版 ゴッホの遺言」中公文庫 (2009/10)
帯に「日本推理作家協会賞受賞から10年」とあるが,受賞は評論その他の部門.それにしても,この本は推理小説とは何の関係もなく,日本推理作家協会もなかなかやると思わせる.
ブログ冒頭のカラー写真は「アルルのゴッホの寝室」.この絵の他にゴッホ自身によるとされる,スケッチが2枚と油彩のレプリカが2枚存在する.スケッチのうちの1枚はゴーギャンあての手紙にあってこれは本物.残る1枚がこの3枚のモノクロ画のいちばん上.これが偽物であると推理する過程が,この本の前半である.その論拠は,実際の部屋の平面図,スケッチの線,窓の開き具合,壁にかけた人物画等々,多岐に渡っている.
ここに引用したのは,遠近法に基づく透視線.3枚の中央のように,偽物のはまるででたらめで,著者曰く,こんなものをゴッホが描くわけがない.確かにゴッホの油彩画では透視戦は下のように一点に向かって消失する.教科書通りである.他のレプリカもゴーギャンあてのスケッチも同様.もっと鮮明な図を見たい方は本を買って下さい.
この前半はきわめて説得力がある.
著者は愛知県立芸術大学教授・油画専攻とのこと.分かりきっていることもだめ押しに図示してみせるあたり,いかにも大学の先生らしい.
後半はゴッホと,弟テオおよびその妻ヨーとの人間模様と,そのためにゴッホが自殺に追い込まれる過程.著者は上記贋作はヨーまたはその関係者の仕業としているが,前半ほどの論理的迫力はない.人間関係は割り切れないものだし,こう言う解釈もあるかな,というのがぼくの読後感.
でも,人によっては後半を面白いと感じるかも.
昨年,ひろしま美術館所蔵の油彩「ドービニの庭」で,いちど描かれた黒猫が後から塗り消されたことがあきらかになった.このため,10年前の記述が改められ,このたび「完全版」となったとのこと.
帯に「日本推理作家協会賞受賞から10年」とあるが,受賞は評論その他の部門.それにしても,この本は推理小説とは何の関係もなく,日本推理作家協会もなかなかやると思わせる.
ブログ冒頭のカラー写真は「アルルのゴッホの寝室」.この絵の他にゴッホ自身によるとされる,スケッチが2枚と油彩のレプリカが2枚存在する.スケッチのうちの1枚はゴーギャンあての手紙にあってこれは本物.残る1枚がこの3枚のモノクロ画のいちばん上.これが偽物であると推理する過程が,この本の前半である.その論拠は,実際の部屋の平面図,スケッチの線,窓の開き具合,壁にかけた人物画等々,多岐に渡っている.
ここに引用したのは,遠近法に基づく透視線.3枚の中央のように,偽物のはまるででたらめで,著者曰く,こんなものをゴッホが描くわけがない.確かにゴッホの油彩画では透視戦は下のように一点に向かって消失する.教科書通りである.他のレプリカもゴーギャンあてのスケッチも同様.もっと鮮明な図を見たい方は本を買って下さい.
この前半はきわめて説得力がある.
著者は愛知県立芸術大学教授・油画専攻とのこと.分かりきっていることもだめ押しに図示してみせるあたり,いかにも大学の先生らしい.
後半はゴッホと,弟テオおよびその妻ヨーとの人間模様と,そのためにゴッホが自殺に追い込まれる過程.著者は上記贋作はヨーまたはその関係者の仕業としているが,前半ほどの論理的迫力はない.人間関係は割り切れないものだし,こう言う解釈もあるかな,というのがぼくの読後感.
でも,人によっては後半を面白いと感じるかも.
昨年,ひろしま美術館所蔵の油彩「ドービニの庭」で,いちど描かれた黒猫が後から塗り消されたことがあきらかになった.このため,10年前の記述が改められ,このたび「完全版」となったとのこと.