Sixteen Tones

音律と音階・ヴァイブ・ジャズ・ガラス絵・ミステリ.....

銀齢の果て

2008-08-03 09:36:28 | 読書
筒井康隆著.新潮文庫 (2008/8)

2005年に小説新潮に連載,2006年に単行本化されたものだが,もうちょっと早く文庫にしたらもっと売れたんじゃないだろうか.穂村弘解説.山藤章二のいじわるタッチの挿画がよい.おじいさんよりおばあさんを描いた方が筆が冴えている.

老人が増えすぎ,老人相互処刑制度が施行された.「その地区」に指定された町内に住む70歳以上の老人は,1ヶ月以内に最後の一人まで殺し合わねばならない.もし複数の老人が生き残った場合は,全員厚生労働省中央人口調整機構によって抹殺されるという,老人版バトルロイヤル.主として蔦屋という菓子舗のご隠居の目線で話しが進み,どこにでもありそうな町内が舞台.

プロットだけで成り立っている小説で,エロ・グロ・ナンセンスが嫌いな方は読むに耐えないと思う.ボクはと言えば,一気に読んでしまった.象だの,捕鯨の銛だのが出てくる.人間の血を浴びると熱いというのも,嘘かもしれないがリアルだ.ちかごろ筒井さんは純文学づいているのかと思ったが,ここでは本来のSF作家に戻ったようだ.

もちろんこれはSFではない.最近無差別殺人が若い人の間で流行しているが,最近無差別殺人を夢見ているのは,じつは後期高齢者とその予備軍だろう.いまのところ暴走老人たちも,アキバの青年ほど暴走出来ないところがかわいいではないか.小説では,老人たちの矛先が若い層に向かう前に,老人相互処刑制度で千手を打ったのだろうか.

自分でトイレに行けなくなってまで生きていたくはないと言うのは.トイレに行けなくても賢明に生きている人に対する冒涜だし,そもそも実際にトイレに行けなくなった時点で自分はどう思うかは分からない.歳をとるとどうなるかというのは,歳をとってみないと分からない.でも現に改造内閣の平均年齢は60歳強だから,悪意はないとしても,老人の自殺奨励,老人に対する自殺幇助の程度は法制化されても不思議ではないかも.

タイトルが「銀嶺の果て」のもじりと分かる者はバトル対象者かも.ちなみに筒井さんは1934年のお生まれです.
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2 コメント

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今なお (m_jci)
2008-08-03 17:51:40
筒井さん、断筆された時期もありましたが、なお、この手のものも書いておられるんですね。「笑うな」など、中学生くらいの頃に読んでいたのを思い出します。
老いの話は、近未来SFの題材にとられますね。若者が老人の首を刈るショートショートや、姥捨て復活の話も読んだ覚えがあります。
今のままだとそうなっちゃうよということでしょうか。
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Unknown (16トン)
2008-08-04 07:45:10
コメント有り難うございます.

筒井さんのホームページ
http://www.jali.or.jp/tti/
には,日記もあります.

読売新聞で,赤塚不二夫さんについて「晩年は...かわいそうだった」と言っておられましたね.
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