兵庫県知事選挙は過去に見たことのない展開になった。斎藤元彦前知事は、公人としての資質に関わる内部告発があった時に「犯人捜し」を強行して、
内部告発者を懲戒処分にしたことが公益通報者保護法違反である疑いを持たれた。
百条委員会でも前知事は「処分は適切だった」と譲らず、道義的責任も法的責任も否定した。
結果、県議会の全会一致の不信任を受けて失職した。その前知事が出直し選挙で圧勝した。
県議会と対立して失職に追い込まれたが、「県議会と知事と、どちらの言い分が正しいか」という選択を有権者に求めて再選を果たした県知事は過去にも存在した。
だが、今回は事情が違う。問われたのは議会と知事の政策上の対立ではなく、斎藤氏個人の資質問題だったからである。
だが、公人として適性を欠いているという理由で不信任を突きつけられた前知事はこれを「大胆な県政改革をめざした知事が、
守旧派県議会と既存メディアに敵視された」という政治的なストーリーに作り替えて、有権者の支持を集めることに成功した。
シリアスな問題は「斎藤支持」を掲げた別の立候補者が登場して、百条委員長の県議の自宅前で脅迫行為を行ったり、
街宣で虚偽の情報を繰り返すという仕方で結果的に前知事の当選をアシストしたことである。おそらくこの候補者は訴追されることになると思うが、
公選法の「穴」を利用した、前代未聞の不祥事という他ない。
斎藤支持者たちはしばしばメディアの取材に「新聞テレビでは前知事に非があるという情報ばかり流れていたが、
ネットではそれとは反対のことが言われていたので、そちらを信じた」と述べている。
ここまでメディア不信を招いたのはメディアの側の責任である。これまで筋目の通った、信頼性の高い報道を発信し続けていれば、
これほど多くの市民が「メディア不信」を口にするはずがない。 もちろんネットで配信される情報は「玉石混淆(多くが石)」であり、
真偽の判定には高いリテラシーが求められる。だが、そのような批評的知性が必要だという社会的合意も、それを育てる仕組みも現代日本にはない。
※AERA 2024年12月2日号
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