【G7広島サミット】:バイデンからは謝罪もなし 広島宣言「核廃絶」とは言わない欺瞞
『漂流する日本の羅針盤を目指して』:【G7広島サミット】:バイデンからは謝罪もなし 広島宣言「核廃絶」とは言わない欺瞞
ここまで偽善に満ちたサミットは初めてじゃないか──。G7広島サミットが、19日からはじまった。被爆地での開催は初めてのことだ。サミット初日は、岸田首相が訴えていた通り、まさに「核なき世界」をアピールする一日だった。
午前10時すぎ、各国首脳が次々に「平和記念公園」に到着し、原爆資料館を訪問。G7首脳がそろって視察するのは初めてだ。被爆者と会い、原爆の惨禍についても直接話を聞いた。芳名録に記帳し、原爆死没者慰霊碑にも献花。その後、公園内に「被爆桜」を植樹している。
広島市の平和記念公園で植樹するG7の各国首脳ら(左からマクロン仏大統領、岸田首相、バイデン米大統領)/(C)共同通信社
夜には核軍縮・不拡散をテーマに討議し、共同文書を発表。核軍縮について、岸田は自ら提唱した「ヒロシマ・アクション・プラン」について説明したそうだ。
しかし「核なき世界」を訴えた、この一連のセレモニーは、茶番もいいところだ。G7各国は「平和に向けて行動することが私たちの責務だ」(マクロン仏大統領)などと、きれいごとを芳名録に記しているが、核を放棄するつもりなどサラサラないからだ。
米、英、仏の3カ国は核保有国である。さらに、日、独、伊、加の4カ国は、アメリカの「核の傘」に守られている。G7は「核同盟国」みたいなものだ。核兵器の開発、保有、使用、威嚇を全面的に禁止した「核兵器禁止条約」に署名・批准している国は一国もない。核抑止力に依存するG7のトップが集い、「核なき世界」を訴えるなど、ブラックジョークもいいところだろう。
しかも、核軍縮に関する「共同文書」で、ロシアによる核威嚇と使用は許されないと糾弾する一方、G7側の核兵器は「防衛目的のための役割を果たし、侵略を抑止し、戦争や威圧を防止すべきとの理解に基づいている」と評価しているのだから、ふざけるにも程があるというものだ。なぜ、自分たちの核武装は許されるのか。7人の首脳は、原爆資料館で何を見てきたのか。
軍事評論家の前田哲男氏がこう言う。
「ロシアの核兵器を悪と決めつけ、G7の核兵器を正当化するのは、まさに欺瞞、偽善です。要するに、G7は核兵器を手放すつもりはない、ということでしょう。せっかく被爆地でサミットを開いたのに、なぜ、すべての核を悪とする立場に立ち、『核廃絶』に踏み込まなかったのか。これでは、いくらサミットで『核なき世界』を訴えても、実効性はほとんどないでしょう」
しかも、バイデン大統領は、「核のボタン」を携帯して広島入りしている。広島に原爆を落としたアメリカの大統領が、「核のボタン」を抱えながら、広島で「核なき世界」を訴えるという構図である。まさに、欺瞞、偽善、ペテンの茶番劇である。
◆「核軍縮」も所詮は口だけ
岸田も「核なき世界」なんて言っているが、本気じゃないのは明らかだ。
18日のバイデンとの会談でも、アメリカの「核の傘」による拡大抑止は、日本と東アジア地域の安全保障に不可欠との認識で一致している。本気で「核廃絶」を目指しているなら、核による「拡大抑止は不可欠」などという発想が出てくるわけはないだろう。
安倍元首相が生前「アメリカとの核共有について議論すべき」と言い出した時も、一言も抗議もせず、完全に“スルー”していた。
地元・広島の教育委員会が今年2月、原爆の悲惨さを伝える漫画「はだしのゲン」を平和教育プログラムの教材からの削除を決定し、被爆者団体が撤回を求めた時も、岸田は最後まで“我関せず”状態だった。
「これまで、岸田首相が『核なき世界』のためにアクションを起こすチャンスは何度となくありました。でも、一度も具体的に動いたことがない。正直、地元・広島の有権者も岸田首相には疑問を持ち始めています」(広島県政関係者)
「核兵器禁止条約」については、批准しないばかりか、締結国会議へのオブザーバー参加すら拒否するありさまだ。
真剣に「核なき世界」の実現を目指しているなら、少なくともオブザーバー参加くらいしているのではないか。ドイツは参加している。
「核兵器禁止条約は、世界68の国と地域が批准している。有効な国際法です。核を保有している米、英、仏、中、ロは、ある意味、違法国家とも言えます。岸田首相には、そうした自覚もないのではないか。核禁止条約は『ヒロシマ・アクション・プラン』で言及すらされていない。本当に岸田首相は、『核なき世界』を目指しているのでしょうか」(前田哲男氏=前出)
「核なき世界」の実現について、岸田は「ライフワークだ」と公言しているが、所詮は口だけということだ。高千穂大教授の五野井郁夫氏(国際政治学)はこう言う。
「サミットで岸田首相は、従来通り『核兵器不拡散条約(NPT)』の枠組みに沿った発言しかしていません。NPTは、米、英、仏、中、ロの5カ国だけは、核保有を認めるという条約です。サミットが被爆地で開催されるのは初めてで、歴史的なタイミングなのだから、NPTの枠組みから離れ、広島の被爆者の方たちに寄り添った発言をすべきです。やる気がないどころか、被爆者の方たちを軽んじた態度だと思います」
◆「非核三原則」も黄信号
こんな調子でよくも「核なき世界」などと言えたものだ。結局のところ、岸田の狙いはアメリカに寄り添い、日本を軍事大国化することなのではないか。昨年末、アメリカの言いなりになって安保関連3文書を改定し、「敵基地攻撃能力」の保有を決めたことからも明らかだ。米誌「タイム」も、〈岸田首相は長年の平和主義を捨て去り、自国を真の軍事大国にすることを望んでいる〉と指摘している。今後、アメリカと一緒になって軍事大国化していくに違いない。
サミット最終日の21日に開かれる日米韓首脳会談は要注意である。
「4月の米韓首脳会談は、アメリカが韓国に提供する『拡大抑止』を強化するため、米韓の当局者による『核協議グループ』の創設で一致しています。韓国側は、事実上の『核共有』とみなしている。具体的には、米戦略原子力潜水艦を寄港させる構想です。21日の日米韓首脳会談は、日本の『核共有』のきっかけになるのでは、とみられているのです」(外交関係者)
日本との「核共有」は、アメリカ側も前のめりだ。オバマ政権時に国防次官補代理を務めたブラッド・ロバーツ氏は、時事通信のインタビューで日米の「核共有」に触れ、「機は熟していないが、議論する価値はある」と話している。いずれ岸田が「非核三原則」の見直しに踏み切ってもおかしくない。立正大名誉教授の金子勝氏(憲法)はこう言った。
「岸田首相が今後、『非核三原則』の見直しを言い出す可能性はゼロではないと思う。すでに防衛費の倍増と、敵基地攻撃能力の保有を決め、政府・与党はいよいよ武器輸出を制限する『防衛装備移転三原則』の見直しに向けた議論も始めました。防衛政策の大転換を決めた直後、岸田首相は『安倍さんもやらなかったことをやった』と高揚していたといいます。『国を守るために核共有についても考えたい』と言い始めても不思議ではありません」
予想されたことだが、バイデンは原爆投下について「謝罪」もしなかった。「核なき世界」どころではない。国民は「ヒロシマ」の茶番セレモニーに騙されてはダメだ。
元稿:日刊ゲンダイ DIGITAL 主要ニュース 政治・社会 【政治ニュース・岸田政権・外交・G7広島サミット】 2023年05月20日 17:00:00 これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。