《社説②》:広がる遺伝情報の利用 差別生まぬルールが必要
『漂流する日本の羅針盤を目指して』:《社説②》:広がる遺伝情報の利用 差別生まぬルールが必要
がんや難病の患者の遺伝情報を使い、一人一人の体質や病状に応じた診断、治療を提供する「ゲノム医療」が広がっている。
遺伝情報は、医療の高度化に欠かせない。病気の原因となる遺伝子が分かれば、新たな治療法の開発につながる。遺伝子の特徴から個々の患者に効果のある薬を見つけることも可能だ。
がん治療では、遺伝情報を調べる検査が保険適用になった。さらに、国は2019年から、がんや難病の患者約10万人分の遺伝情報を網羅的に調べる「全ゲノム解析等実行計画」を進めている。
しかし、課題も多い。病気の診断や治療以外の目的で使われると、患者や家族が差別される恐れがあるからだ。
日本医学会と日本医師会は今月、差別を防ぐルール作りを求める声明を発表した。がんなどの患者団体も同様の要望を出した。
これまでも、がん患者の家族が「がん家系」などの偏見から結婚に反対されることがあった。生命保険の加入審査項目に遺伝にかかわる記載があり、金融庁が約款からの削除を求めたこともあった。
「究極の個人情報」である遺伝情報が広く使われるようになれば、患者が就職や結婚などで深刻な差別を受けかねない。
問題は、患者本人だけにとどまらない。遺伝性の病気と分かると、血縁関係にある家族のリスクが高いことも判明し、差別の連鎖につながる恐れがある。
遺伝情報の取り扱いには慎重を期さなければならない。欧米や中国、韓国、豪州などは、遺伝情報による差別を禁止し、医療以外での利用を規制する法律を定めているが、日本にはない。
昨年、議員立法を目指す動きがあったものの、研究やビジネスにブレーキをかけかねないと懸念する声があり、法案提出は見送られた。保険業界に求められていた自主ルール作りも進んでいない。
日本医学会などは「国民が安心してゲノム医療を受けるためには社会環境の整備が必要だ」と訴えている。
ゲノム医療を推進するのであれば、国はまず患者や家族の不安払拭(ふっしょく)に努めなければならない。差別を生まないルールを作ることが不可欠だ。
元稿:毎日新聞社 東京朝刊 主要ニュース 社説・解説・コラム 【社説】 2022年04月25日 02:01:00 これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。
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