《社説②・12.14》:歴史的建造物の復興 未来へ技術つなぐ施策を
『漂流する日本の羅針盤を目指して』:《社説②・12.14》:歴史的建造物の復興 未来へ技術つなぐ施策を
地域の記憶が深く刻まれた歴史的建造物は、人々の心のよりどころとなっている。かけがえのない文化的価値を次世代へ残すために欠かせないのが伝統技術だ。
大規模火災に見舞われたパリのノートルダム大聖堂が再建され、5年半ぶりに一般公開された。中世ゴシック建築の傑作として知られ、国連教育科学文化機関(ユネスコ)の世界文化遺産でもある。
火災では高さ90メートル超の尖塔(せんとう)や、鉛板ぶき屋根の3分の2が焼け落ちた。数千本の木材を用いた複雑な構造で、重い屋根を支える骨組みも灰となった。
再建にあたっては、現代的なデザインに変更し、耐火材料を使用すべきだとの意見もあった。だが、採用されたのは、伝統的な工法や材料を使って復元する方法だ。
建造当時に使われたものに似通った石灰岩や、樹齢200年を超えるオーク材などが集められた。手工具を使い、昔ながらの技術を守り続けている大工らの技と献身がなければ、再建は難しかったであろう。
日本でも2019年に那覇市の首里城で火災が起き、正殿などを焼失した。現在、伝統的な技法を駆使した復興作業が進む。
26年秋の完成を目指す正殿は、近年、古文書などから明らかになった知見を生かし、沖縄戦で失われる前の塗装の色や彫刻の意匠が再現される見込みだ。
一方で、宮大工の技や赤瓦製造、塗装彩色など琉球王国以来の技術の継承が課題として浮かび上がっている。
16年の熊本地震で崩れた熊本城の石垣も、石工が伝統技法を守りながら約30年後の完成に向けて修復に取り組んでいる。
いずれの復元も、将来の担い手育成のため、若い人たちが作業に加わり、熟練者から技術を学ぶ機会になっている。
火災や災害は不幸な出来事だが、職人の仕事の価値が改めて注目された意義は小さくない。
日本の「伝統建築工匠の技」はユネスコの無形文化遺産にもなっている。とはいえ、人手不足が強まる中、放置していれば担い手の先細りは避けられない。
先人の英知を引き継いでいくため、国は支援を一層、充実させるべきだ。
元稿:毎日新聞社 朝刊 主要ニュース 社説・解説・コラム 【社説】 2024年12月14日 02:07:00 これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。
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