【社説①】:週のはじめに考える 「捨てない」という選択
『漂流する日本の羅針盤を目指して』:【社説①】:週のはじめに考える 「捨てない」という選択
十九世紀半ば、ビリヤードの球は、貴重な象牙を原料にして製造されていました。遊技のために、どれだけ多くのゾウが殺されたことでしょう。
米国のメーカーが「代替原料を求む」と、賞金付きの公募をしたそうです。寄せられた案の一つが開発されたセルロイド。
世界で初めて実用化されたプラスチックです。
それから約百五十年。多種多様なプラスチックは、大量消費社会を象徴する素材として生産が爆発的に増えました。
最新の研究によると、米国ではプラスチックの製造、使用、廃棄に伴って排出される温室効果ガスの量が、二〇三〇年までに石炭火力発電のそれを上回ります。
ゾウの保護に役立てるはずが、気候変動の元凶となって地球環境を脅かしている。皮肉な話です。
◆「循環経済」への転換
コーヒー店に行けば、カップやふたがごみ箱にどっさり。スーパーで買い物をすれば、大量のトレーを持ち帰ることに…。
使い捨ては、もはや美徳ではありません。人々が大量消費のライフスタイルを続けているとしても、心にやましさを抱えながらではないでしょうか。
欧州連合(EU)では今夏、プラスチックの使い捨て品の流通禁止が始まりました。対象は外食産業のスプーンやフォーク、ストロー、皿などです。
背景にあるのは、EUが六年前に打ち出した「循環経済」(サーキュラー・エコノミー)への転換政策。資源を次々に投入して製品を作り、廃棄するという一方通行をやめて、新たな資源の投入を抑え、今ある分を効率的に回し続けようとの考え方です。
EUは製品の設計から廃棄段階まで対象にした包括的な行動計画を示しており、経済成長や雇用拡大にもつなげる狙いです。
「採掘し、製造し、使い、捨てるという手法を続けるなら、地球と経済は生き残れない」。欧州委員会のティメルマンス副委員長の言葉に、危機感がにじみます。
これに比べ、日本は中途半端と言わざるを得ません。
来年施行されるプラスチック資源循環促進法では、コンビニのスプーン、ホテルの歯ブラシなど使い捨て品が削減対象となるものの流通禁止には程遠いのです。
循環経済へ向けた取り組みを企業や国が強力に、多角的に推し進め、新しい生活様式の選択肢を消費者に示すべきです。
使い捨てにせず、繰り返し利用する「リユース」もその一つ。
耐久性のある容器と、洗浄・輸送システムを組み合わせることによって、さまざまな業種がリユースに参加できる仕組みが整備されつつあります。
NISSHA(京都市)は、外食産業などで使う容器のシェアリングを目指しています。カップやランチボックスを飲食店に提供し、使用後に回収、洗浄して再利用します。東京都内で今月、コーヒーチェーンでの実証実験が始まります。
ループ(米国)は世界百七十以上のメーカーと提携し、欧米で生活用品や食品を販売しています。消費者が使用済み容器を返却すると、洗浄され、容器代は消費者に返金されます。
◆豆腐を買って驚いた
日本でも今年五月、首都圏のイオンで販売が始まりました。品目はまだ十数種類ですが、欧米では五百超と普及が進みます。
「日本には循環経済の土壌があるはずです」。ループ社のアジア太平洋統括責任者エリック・カワバタさんが、約三十年前の体験を聞かせてくれました。
横浜の老舗で豆腐を買った時のこと。水槽の中の製品を、持参したボウルに入れて売ってくれたそうです。昔ながらの商慣習に驚き、感心したといいます。
「今も、瓶ビールなど容器回収型の販売形態が残っている。礼儀正しい国民性も、きちんと容器を返すシステムに合います」
地球環境を守る、その下地が私たちにあるというなら、うれしい限り。プラスチックを無駄にしないこうしたシステムが根付き、広がれば良いと思います。
同社のモットーは「捨てるという概念を捨てよう」だそうです。これを、循環経済時代の常識にしませんか。
元稿:東京新聞社 朝刊 主要ニュース 社説・解説・コラム 【社説】 2021年11月07日 07:29:00 これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。
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