【社説①】:新たな経済対策 「暮らし優先」を明確に
『漂流する日本の羅針盤を目指して』:【社説①】:新たな経済対策 「暮らし優先」を明確に
政府はコロナ禍に対応するための新たな経済対策を今月中旬にまとめる。税制を活用した賃上げや現金給付などが軸となる見通しだ。岸田政権は対策で「成長と分配の好循環」を目指すが、暮らしの修復を最優先にすべきだ。
政権は対策の策定後、財政的な裏付けとなる二〇二一年度補正予算を年内に成立させる構えだ。
対策の目玉は賃上げを実施した企業に対する税制面での優遇策だ。ただ賃上げ税制は一三年度に安倍政権が実施したが、賃金全体の底上げにはつながらなかった。
その大きな理由は制度の対象が法人税を払っている黒字企業に限られる点だ。黒字企業の多くが大企業である一方、中小企業は半分以上が赤字で制度の対象外だ。この結果、事業所ベースで約九割を占める中小企業には政策効果がほぼ及ばなかった。
賃上げ税制を追加実施するなら優遇措置の拡大だけでは不十分だ。赤字企業でも黒字化の見通しが確実な場合は見なし優遇が受けられるなど、対象拡大に向けた工夫を施すべきだ。
現金給付は非正規雇用者や子育て世帯、十八歳までの子ども全員を対象とする案が浮上している。昨年一律十万円が給付されたが、多くが貯蓄に回り消費刺激効果が薄かったとの指摘もある。
現金を配る上で重要なのは、生活難で直ちに資金援助が必要な人々の洗い出しだ。自治体と緊密に連携した上で迅速で的を絞った給付を求めたい。マイナンバーカードを活用する案も浮上するが、カードへの不安が依然根強い状況で強行してはならない。
対策には飲食や観光業界からの期待が大きいGoTo事業の再開も盛り込まれる。ただ前政権で行われた感染拡大時での実施は許されない。タイミングを慎重に見極めた上で再開を決断するよう強く求めたい。
同事業をめぐっては飲食店や宿泊施設の一部だけが恩恵を受け、業界全体に支援が回らなかったとの批判がある。公平な制度に向けた大胆な修正も必要だろう。
補正を含む二〇年度予算では三十兆円が余った。これは必要な生活支援が十分に行き渡らなかったことを意味する。
財源には限りがあり、コロナ禍に乗じた過大な補正を編成することがないよう重ねてくぎを刺しておきたい。
元稿:東京新聞社 朝刊 主要ニュース 社説・解説・コラム 【社説】 2021年11月05日 07:39:00 これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。
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