《社説①・11.26》:台湾有事の対応 住民の安全考えているか
『漂流する日本の羅針盤を目指して』:《社説①・11.26》:台湾有事の対応 住民の安全考えているか
住民に犠牲が出ることをいとわないのか。
自衛隊と米軍が台湾有事を想定し、初めて策定中の共同作戦計画である。有事の切迫度が高まった初期段階で鹿児島県から沖縄県の南西諸島とフィリピンに、米軍がミサイル部隊を展開させる方針であることが分かった。
南西諸島には、高機動ロケット砲システム「ハイマース」などを保有する米海兵隊の連隊が有人島に臨時拠点を設ける計画だ。自衛隊は弾薬や燃料の提供などの後方支援を担う。
フィリピンには、宇宙やサイバー空間、電磁波に対処する米陸軍の多領域任務部隊のミサイル部隊を置くという。
南西諸島とフィリピンを結ぶ「第1列島線」に沿ってミサイル網を設け、2方向から中国艦艇などの展開を阻止する構想だ。
専門家の見方だと、台湾有事の初動段階では米軍の艦艇部隊や航空部隊が中国軍のミサイル攻撃を受けないように射程圏外にいったん引くと想定され、南西諸島やフィリピンに配置された部隊が作戦を担うという。
これらの部隊に対する中国の攻撃は当然、想定されるだろう。
中国公表の2024年度の国防予算は日本の4倍を超えている。極超音速兵器の開発や新型ステルス戦闘機の導入も進めており、空母も近く3隻態勢になる。
攻撃された場合、島が「戦域化」し、部隊だけでなく住民に大きな犠牲が出る懸念は拭えない。
南西諸島を戦場にしてはならない。フィリピンで部隊配置が想定されるルソン島の州知事も「(米中の)戦争に巻き込まれるのを望んでいない」としている。生命、財産に危険が及ぶ住民や国民への説明を欠いたまま、共同作戦計画を進めることは看過できない。
日本はこれまでも、中国の海洋進出を背景に南西諸島の防衛力を強化する「南西シフト」を進めてきた。16年以降、与那国、奄美、宮古などに陸自駐屯地を開設し、陸自は離党防衛専門部隊の師団格上げ計画も進めている。
フィリピンとの「準同盟化」も進んでおり、7月には自衛隊とフィリピン軍の相互往来を容易にする「円滑化協定」も結ばれた。集団的自衛権行使の範囲がなし崩し的に拡大する懸念がある。
必要なのは有事を防ぐ努力だ。対話が十分に行われないまま、包囲網の強化を続けると、中国をかえって刺激し対立の激化を招きかねない。平和外交とどう整合するのか。政府に説明を求める。
元稿:信濃毎日新聞社 朝刊 主要ニュース 社説・解説・コラム 【社説】 2024年11月26日 09:31:00 これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。
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