《社説①・11.27》:在職老齢年金 現役世代も視野に議論を
『漂流する日本の羅針盤を目指して』:《社説①・11.27》:在職老齢年金 現役世代も視野に議論を
人口減で人手不足が深刻になる中、高齢世代の就労意欲をそぐ年金の「壁」の見直しが急がれるのは確かだ。
けれど、それが現役世代へのつけ回しになる可能性がある。長期の視点で議論する必要がある。
働いて一定の収入がある高齢者の厚生年金を減額する「在職老齢年金」を巡り、厚生労働省は年金が減り始める「基準額」を、現在の月50万円から62万円へ引き上げる方向で調整に入った。
在職老齢年金は、賃金と厚生年金の合計が基準額を上回った場合、超えた分の半額を減らす仕組みだ。減額されないよう「働き控え」をする人が少なくない。
引き上げに伴い、満額の受給者は約20万人、総額で約1600億円増える見込みだ。
在職老齢年金制度は1965年に始まり、2000年の改正で現行の仕組みとなった。
働きながら年金を受給している高齢者は22年度末で約308万人。約50万人が当時の基準額(47万円)を超え、年4500億円の年金支給が停止されていた。
厚生年金は応能負担で保険料を支払い、その拠出に応じて受給する仕組みだ。老後に一定の収入があるからといって支給を停止するのは、社会保険の趣旨になじまない。在職老齢年金の基準額の引き上げはうなずける。
ただし、年金給付が増えると、年金財政が圧迫される。ひいては将来の世代が受け取る年金の水準低下を招きかねない。
厚労省は財政悪化を防ぐため、高所得の会社員が支払う厚生年金保険料の上限を引き上げる案を示している。
国民の所得のうち税金や社会保険料をどれだけ払っているかを示す国民負担率は、近年、50%に近づきつつある。中でも大きく伸びているのが、主に現役世代が担う社会保障負担だ。
在職老齢年金の基準額を超える人は、比較的生活に余裕があると言える。そうした高齢者の年金を増やすため、現役世代にこれ以上の負担を求めることに、理解を得られるだろうか。
公的年金は、現役世代の保険料と公費で賄われる「仕送り方式」だ。少子高齢化に伴い、支え手である現役世代は減り続けている。支え手の範囲をどう増やしていけるかが課題の一つだ。
年金制度改革は、来年の通常国会の焦点の一つになる。将来にわたり制度が機能していくには、今何を変えるべきなのか。与野党で議論を尽くしてほしい。
元稿:信濃毎日新聞社 朝刊 主要ニュース 社説・解説・コラム 【社説】 2024年11月27日 09:31:00 これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。
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