【社説・12.07】:水道のPFAS/厳格な水質基準を設けよ
『漂流する日本の羅針盤を目指して』:【社説・12.07】:水道のPFAS/厳格な水質基準を設けよ
人体への影響が懸念される有機フッ素化合物(PFAS)について、環境省と国土交通省が水道水の全国調査結果を公表した。
国の暫定目標値は代表的なPFASであるPFOAとPFOSの合計で1リットル当たり50ナノグラム(ナノは10億分の1)で、2024年度にこれを超えた水道事業はなかった。小規模事業者にも対象を広げた全国的な調査は初めてだ。国民の健康を守るために、実態把握を続けてもらいたい。
調査対象は全国3755の水道事業で、20~24年度の水質を調べた。3595事業から回答があった。環境省は、全国の給水人口に対して98・2%の水質の安全性が確認できたとした。汚染された水源の取水停止などの対策が奏功したという。
だが全体の2割の水道からPFASが検出され、北海道などの3事業では暫定目標値に近い数値が出た。20~23年度では、12都府県14水道事業で暫定目標値を超えていた。兵庫県では宝塚市(54ナノグラム)、西脇市(100ナノグラム)が含まれる。いずれも現在は50ナノグラムを下回るものの、水質の変化を見守る必要がある。
PFASは水や油をはじき熱に強い化学物質で、身近で幅広く使われてきた。近年の研究で発がん性などが指摘され、PFOAなどは国際条約で製造や使用が規制された。米軍基地や化学工場、廃棄物処分場などの周辺で検出される例が多い。
20~23年度に最大で1400ナノグラム(目標値の28倍)が検出された岡山県吉備中央町では11月、公費による血液検査に踏み出した。住民約800人が希望した。自治体では全国初の試みで、影響の確認や不安の軽減につながる取り組みである。
市民団体などによる独自の血液検査は明石市や大阪、東京、沖縄などで既に実施されている。1リットル当たり20ナノグラムという米国アカデミーの指針値を上回る人が含まれていた。
ところが環境省は血中濃度と健康影響との関係性が明らかでないとして、血液検査には慎重な姿勢だ。データの蓄積は汚染に関する現状把握に欠かせない。市民や自治体に任せず、責任を持って血液検査などを進める姿勢が国には求められる。
暫定目標値しかない国内の現状では、PFASの検査や水質改善は水道事業者の努力義務でしかない。これを法的義務とする「水質基準」への引き上げについて、政府は来春をめどに方向性をまとめるとする。
米国はPFOAとPFOSの飲料水の規制値を、それぞれ1リットル当たり4ナノグラムとし、ドイツも28年に4種類のPFAS合計で同20ナノグラムとする。日本も各国の研究動向などを参考にし、科学的な知見に基づいた厳格な水質基準を早急に設けるべきだ。
元稿:神戸新聞社 朝刊 主要ニュース 社説・解説・コラム 【社説】 2024年12月07日 06:00:00 これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。
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