《社説②・11.27》:トランプ事件終結 法の支配の原則はどこへ
『漂流する日本の羅針盤を目指して』:《社説②・11.27》:トランプ事件終結 法の支配の原則はどこへ
トランプ次期米大統領が前回大統領選の敗北を覆そうとした議会襲撃事件を巡り、連邦地裁がトランプ氏の起訴取り下げを認めた。
現職大統領を起訴しない司法省の方針は次期大統領にも適用されるとし、特別検察官が取り下げを申請した。
選挙結果を確定する手続きの妨害目的で、支持者に連邦議会を襲撃させた罪に問われていた。前代未聞の事件は、真相究明に向けた公判も開かれずに終結する。
機密文書持ち出しや不倫口止めなど他に起訴された事件も、取り下げや量刑言い渡しの延期となりそうだ。刑事責任を問われないまま大統領に返り咲く。
有権者がトランプ氏を大統領に選んだ結果を受けて事件を帳消しにする措置は、法の支配の原則を損なうことになろう。
大統領経験者が刑事事件で起訴されたのは初めてだった。中でも注目された2021年の議会襲撃事件は、選挙結果に不満を持つ支持者が議事堂を一時占拠し、警察官1人を含む5人が死亡した。トランプ氏は、直前の集会で支持者を扇動したとして起訴された。
今回の大統領選でも、トランプ氏の暗殺未遂事件が2度起きた。米国社会には政治的暴力を容認する空気が強まっているようにさえ見える。民主主義を踏みにじった議会襲撃事件を不問に付して、社会の公正は保たれるのか。
大統領に就くために起訴を取り下げざるを得なかったのなら、検察側は2期目の退任後に、再び刑事責任を問うべきだ。
トランプ氏は選挙戦で、事件は民主党政権による「魔女狩りだ」と根拠もなく主張した。世論を味方につける材料に使い、司法制度への不信をあおった。
大統領選への影響を避けるため遅延戦術を駆使し、不倫口止め事件以外は公判も開かれなかった。有権者にとって重要な判断材料なのに、事件の真相や責任の所在を知る権利を損なった点でも、民主主義の土台を揺るがした。
連邦最高裁は7月、議会襲撃事件を巡って、大統領在任中の公的な行為は刑事訴追されない「免責特権」を認める判断を示した。これを免罪符に、次期政権でトランプ氏が権力維持のため意のままに振る舞う懸念がある。
米国は権威主義国への対抗軸として法の支配や民主主義を前面に掲げてきたが、説得力が著しく損なわれるだろう。トランプ氏は国際協調にも背を向ける。権力と法の関係について米社会が抱える悩みは深い。
元稿:信濃毎日新聞社 朝刊 主要ニュース 社説・解説・コラム 【社説】 2024年11月27日 09:30:00 これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。
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