《社説①・11.29》:トランプ関税強化 世界経済の失速招く脅し
『漂流する日本の羅針盤を目指して』:《社説①・11.29》:トランプ関税強化 世界経済の失速招く脅し
米国のトランプ次期大統領が中国、メキシコ、カナダに新たな関税を課すと表明した。
次期政権が最重視する不法移民や麻薬の流入阻止のため、各国に対応を迫る狙いだと説明する。
貿易や経済とは関係ない内政の問題に関税強化を持ち出すのは筋違いだ。1期目でも関税を脅しの武器として、相手国に要求をのませる手法を多用した。
報復関税の応酬を招くだけで、問題解決にはつながるまい。
中国製品には10%の追加関税を発動するという。乱用が社会問題化する医療用麻薬が、中国からメキシコ経由で流入していることへの対抗措置だと主張する。
米中両政府は昨年11月に行われた首脳会談の合意に基づき、医療用麻薬対策の作業部会を設けて協議を重ねてきた。
トランプ氏は「何の成果もない」と批判しているが、外交的な解決を放棄して関税を振りかざすのは乱暴に過ぎる。1期目と同様に、中国との「貿易戦争」に発展しかねない。
メキシコとカナダからの全輸入品には25%の関税を課すとした。両国は「米国・メキシコ・カナダ協定」により、米国にほぼ無関税で輸出してきた。1期目に結んだ協定を自ら一方的に覆すこともいとわない強引さだ。
メキシコのシェインバウム大統領は「脅迫や関税は移民や薬物への対処にならない」と批判しつつ、報復を検討する考えを示した。対立が深まれば、課題解決に向けて連携する土台を失うだけだ。
無軌道な関税措置の悪影響は世界各国に及ぶ。メキシコにはトヨタ自動車やホンダ、日産自動車など日系自動車大手が生産拠点を構え、米国に輸出している。高関税を課されれば利益を圧迫し、メキシコ生産の魅力は薄れる。戦略の見直しは避けられない。
「米国第一」を掲げるトランプ氏は大統領選で、米国への全輸入品に10~20%の関税を課すとも主張した。日本を含めて直接の標的となる事態も考えられる。
高関税による保護主義は、貿易の停滞を招いて世界経済を失速させかねない。米国内でも輸入コストが増大し、大統領選の争点だったインフレが再燃する恐れがある。米国自身の利益を損なう危うさを認識しているのだろうか。
次期政権の主要閣僚は「忠臣」で固められ、歯止め役が見当たらない。日本を含めて自由貿易の恩恵を受けてきた関係国は、独善的な通商政策に自制を強く迫る役割を果たさなければならない。
元稿:信濃毎日新聞社 朝刊 主要ニュース 社説・解説・コラム 【社説】 2024年11月29日 09:31:00 これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。
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