【社説・12.13】:「103万円の壁」の3党協議 判断材料示さぬ合意、危うい
『漂流する日本の羅針盤を目指して』:【社説・12.13】:「103万円の壁」の3党協議 判断材料示さぬ合意、危うい
自民、公明、国民民主の3党は、年収が103万円を超えると所得税が生じる「103万円の壁」について、2025年から引き上げることで合意した。上げ幅は、国民民主党が求める178万円を目指すと合意文書に記した。
衆院で少数与党に変わったからこその政治プロセスである。与党が24年度補正予算案を年内に成立させるため、急転直下で歩み寄った。ガソリン税に上乗せされている暫定税率の廃止と合わせ、国民民主党が衆院選公約にした政策をのんだ形だ。
賃金が思うように上がらず、急激な物価高に苦しむ国民から見れば、この30年近く非課税枠が据え置かれてきた現状に不満がある。しかも、税収は5年連続で過去最高を更新する見込みだ。これまで与党だけで決着してきた税制協議に、民意を反映させる動きは納得できる。
引き上げは必要だろう。それにしても178万円という数字が先行し、中身を詰めない見切り発車だ。目的や見込む効果があやふやな上、恒久減税による財政や社会保障、行政サービスへの影響についても説明がない。国民民主党の言う「手取りを増やす」には当面、つながるかもしれない。だが長い目で見て国民のためになるか、精査したのだろうか。判断材料を示さないまま決める手法は危うい。
合意後、自民党の森山裕幹事長は「1年でできるわけではない」とし、複数年にわたる段階的な引き上げを示唆した。25年からの実施を強く求めた国民民主党と、温度差がある。3党が単に党の利益を優先しただけか否かは、これから問われる。国民目線で協議すべき点は山積みだ。
引き上げ幅は、その税制を設けた目的と、税収減の影響を踏まえなければならない。
178万円という数字は、非課税枠を103万円にした1995年から最低賃金が7割上がったのを根拠としている。しかし、非課税枠は最低限の生活を保障する目的で設定されており、物価上昇率に準ずるのが妥当といえよう。
仮に178万円まで引き上げると、国と地方を合わせた減収額は政府試算で年7兆~8兆円となる。ならば歳出削減や別の増税、国債発行など財源の議論が欠かせない。国民民主党の言う、税収の上振れ分や、経済効果による増収は候補になるとはいえ、巨額かつ恒久的な財源に充てるにしては楽観的過ぎる。とりわけ地方自治体が代替の財源を求めるのは当然である。
減税で懐が潤うように見えても、結局は借金の穴埋めや行政サービスの縮小で国民につけを回すことはないのか。
「103万円の壁」を引き上げる目的として、労働力不足を背景に、パート労働者らの働き控えの解消につながるとの主張もある。それを言うなら、社会保険料の支払いが発生し、より多くの人が関わる「130万円の壁」の議論こそ欠かせない。
そもそも3党の税制協議だけで決定していい政策ではなかろう。何が目的で、どれほどの効果があるのか。説明責任を果たすよう求める。
元稿:中國新聞社 朝刊 主要ニュース 社説・解説・コラム 【社説】 2024年12月13日 07:00:00 これは2自で判断下さい。
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