《社説②・11.25》:公安の書類送検 組織のゆがみを明らかに
『漂流する日本の羅針盤を目指して』:《社説②・11.25》:公安の書類送検 組織のゆがみを明らかに
地に落ちた信用を取り戻すためにも、ゆがんだ組織体質の検証が欠かせない。
軍事転用できる機械を不正輸出したという理由で起訴され、その後取り下げられた大川原化工機(横浜市)に対する、警視庁公安部による冤罪(えんざい)事件である。
公文書毀棄(きき)、虚偽有印公文書作成・同行使の疑いで、警視庁捜査2課が、当時の公安部捜査員3人を書類送検した。同社側が刑事告発していた。
事実と異なる調書を作文し、都合が悪くなって故意に破棄したのに、誤って捨てたとするうその報告書を作ったとの疑いだ。機械が輸出規制の対象かどうかを確かめる実験で、立件する上で不利なデータを削除し、うその報告書を作った容疑もある。
そうであれば捜査機関としてあるまじき行いだ。検察はその重大さを受け止めて起訴し、裁判の場で全容を明らかにすべきだ。
事件は異例の展開をたどった。
同社社長らの逮捕、起訴は2020年。米中対立を背景に政府が先端技術の流出防止体制を強化、警察庁出身者がトップの国家安全保障局に経済部門が新設されたころだ。翌年の警察白書は、大量破壊兵器関連の不正輸出例として“成果”を紹介した。
社長らは容疑を否認し続け、勾留は1年近くに及んだ。ところが初公判の直前、検察は起訴を取り下げた。犯罪に当たるか疑義が生じた―とするだけで、詳しい説明をしていない。
社長らはまず国家賠償訴訟を起こした。その証人尋問で、捜査に関わった警察官が事件を「捏造(ねつぞう)」と証言した。捜査の問題点を指摘する内部通報もあったという。
一審判決は公安部と検察の捜査の違法性を認め、賠償を命じた。これを不服として控訴審が続いている。そこでも別の元捜査員が、立件は「日本の安全を考えたものではなく、決定権を持つ人の欲だと思う」と証言した。
捜査のあり方を疑問視する声は組織内にあった。にもかかわらず生かされなかったのはなぜか。経済安全保障上の成果を急ぐ圧だったのか。責めを負うべきは書類送検された3人だけなのか。
同社の元顧問は勾留中に重い病気が分かった。入院治療のため保釈を求めたが何度も裁判官に阻まれ、起訴取り下げ前に亡くなった。裁判所の責任も重い。
問いただすべき問題は多岐にわたる。第三者の目を入れた検証を含め、うやむやな幕引きを許さない仕組みが要る。
元稿:信濃毎日新聞社 朝刊 主要ニュース 社説・解説・コラム 【社説】 2024年11月25日 09:30:00 これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。
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