【社説・11.28】:住民投票を求める会 自治再構築の課題残した
『漂流する日本の羅針盤を目指して』:【社説・11.28】:住民投票を求める会 自治再構築の課題残した
所期の目的は果たせなかった。しかし、市民生活の安心・安全に立脚して国策を問い、地方自治の礎を築いた。
石垣市住民投票を求める会が約6年の活動を終え、解散した。同市平得への陸上自衛隊配備計画の賛否を問う住民投票を目指して2018年10月に発足し、市内有権者の約36%に当たる1万4263筆の署名を集めて住民投票条例の制定を求めた。
しかし、市議会は条例案を否決した。投票実施を市に命じるよう求める訴訟でも敗訴が続いた。「自分たちのことは自分たちで決める」という自治の理念は否定された。
自衛隊配備計画に対する市民意思を投票で示すことはできなかった。しかし、安全保障という国策と向き合い、世論を喚起した活動が無に帰したわけではない。国策のために否定された自治を再構築するという課題と教訓を残した。
石垣市議会が条例案を否決した19年2月以降、「台湾有事」を名目とした南西シフトによる石垣市の軍備増強は加速度的に進んでいる。22年12月に閣議決定した敵基地攻撃能力(反撃能力)の保有を可能とする安全保障3文書に基づく長射程ミサイル配備の可能性も出てきた。そうなれば石垣が攻撃目標になりかねず、市民生活上の脅威となる。
着々と進む石垣島の軍事要塞(ようさい)化を市民生活の次元から見据え、意思を表明するのは当然ではないか。それが石垣住民投票が目指したことであったはずだ。国の防衛政策から平穏な市民生活を守る上で、求める会の活動に幾度も立ち戻る必要がある。
住民投票条例案を否決した市議会の判断や市長の認識も問われるべきであろう。
求める会が集めた署名数は、地方自治法に定められた条例請求に必要な署名数の要件(有権者の50分の1)を大きく上回っていた。しかし、市議会は署名に示された市民意思を受け入れなかった。
21年6月には市自治基本条例を改正し、住民投票に関する条文を削除した。これによって市自治基本条例に基づく住民投票は排除されたのである。地方自治の本旨をゆがめるような行為であった。
中山義隆市長は本紙などのインタビューに答え、住民投票の是非について「国防、安全保障に関わるものに、一地域の住民の意思で何かを決定することは非常に危険だ」との見解を示している。
外交・防衛は「国の専権事項」という認識に基づくものであろう。しかし、国が進める安全保障の政策が住民生活と衝突する場合、投票を通じて住民意思を表明し、国に是正を求めることは不可欠だ。
沖縄はこれまで米軍基地問題や新基地建設問題で県民投票や市民投票を重ねてきた。石垣住民投票を求める市民の活動を含め、これらの経験は国策にほんろうされながら、抵抗を続けてきた沖縄の歩みに根ざすものであり、県民の未来を拓(ひら)くものである。
元稿:琉球新報社 主要ニュース 社説・解説・コラム 【社説】 2024年11月28日 04:00:00 これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。
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