「イスラム国」日本人人質事件 政府、官邸対策室を設置(15/01/20)
昨日仕事を終えて家に帰ったら、もうこのイスラム国による日本人人質身代金要求の話題で持ちきりだった。NHKなぞ、当初の放送予定を全て差し替えて、このニュースばかり流していた。
イスラム国が、昨年現地で拘束したジャーナリストの後藤健二さん(上記動画の左端人物)と自称・民間軍事会社経営の湯川遥菜(はるな)さん(同じく右端人物)の2人を解放する条件として、2億ドル(日本円換算で約240億円)の身代金を日本政府に要求し、72時間以内に支払わなければこの2人を斬殺すると言うのだ。2億ドルの要求額の根拠は、この直前まで中東歴訪中の安倍首相が、「イスラム国によるテロとの戦い」の一環として、避難民保護や医療支援などの「非軍事分野」を中心に、2億ドルの援助を、イスラム国と戦っている周辺諸国に行うと表明したからだ。(その時の安倍談話がこちら)
今後、どう情勢が変わるか分からないが、現時点で分かっている範囲での情報を基に、この事件に対する私の感想や意見を取り急ぎ述べておきたい。
まず、どう「非軍事分野」での援助だと言い訳しようとも、「イスラム国によるテロとの戦い」の一環として表明した以上は、それはイスラム国にとっては敵対行為以外の何物でもない。いくらこちらが「非軍事分野」限定で援助したつもりでも、金に色なんて付いていないのだから、現地でどう配分されるか分からない。日本政府にとっても、どうせ「言い訳」にしか過ぎないのだから、使い道のチェックなぞ元々する気もないだろう。仮に援助が全額「非軍事」限定で使われたとしても、その分浮いた他の金が戦費に回されるだけだから、イスラム国にとっては軍事援助と同じ事だ。
これも全ては安倍が悪いのだ。後先の事を何も考えず、ただただ自衛隊の海外派兵や集団的自衛権行使の口実作りの為だけに、8千キロ以上も離れた中東に、自分からノコノコ出掛けて行って、わざわざ他国の喧嘩(戦争)を買いに行ったから、こんな事になってしまったのだ。中東歴訪先での安倍の大盤振る舞いや大言壮語に、訪問先でヨルダンのアブドラ国王やイスラエルのネタニヤフ首相から、「そんな事まで言ってしまって日本は大丈夫なのか?」と逆に心配される程だった。その訪問先での杞憂(きゆう)が、早速現実のものになってしまったのだ。
もう、ことここに至っては、もう出来る事は限られている。たとえ他国から「裏切り者」呼ばわりされようとも、身代金を渡して2人を解放してもらう以外には無いではないか。もちろん、それはイスラム国の「脅し」に屈した事になる。何せ相手は「何でもアリ」のイスラム国だ。今後もどんなユスリ・タカリを受けるか分かったものではない。でも、本当に2人を救出しようと思えば、今の時点で出来る事はもうそれ位しかないではないか。
本当はこんな事になる前に、テロの火種を無くさなければならなかったのだ。火の無い所に煙は立たない。テロが起こるのも、民族対立や貧富の格差があるからだろう。だったら元から絶たなければダメだろう。
米国は「イラクがアフガニスタンのタリバンを支援していたから」と言って、イラクに攻め入ってフセイン政権を倒した。確かにフセインは独裁者だった。でも、独裁者は何もフセインだけではない。例えばイラクの隣のサウジアラビアも、国王専制で議会も選挙もない独裁国家だ。でも、親米国家で石油大国のサウジには欧米は何も言わない。何故フセインだけが悪く言われなければならないのか。
その中で、やがて「タリバン支援」も米国のでっち上げた嘘だと分かり、フセインは打倒されたがその後の政権も似たり寄ったりの独裁政権で、イラク国内は更に大混乱。
その中で、本当にテロを撲滅したいのなら、フセインを支持していたスンニー派(イスラム教の多数派)と、そのフセインに弾圧されていたシーア派(同じく少数派)や少数民族のクルド人が、よく話し合って民主的な国にしていく、その手助けを地道にする以外にない。でも、米国のやった事はそれとは正反対。紛争当事者の一方のシーア派やクルド人だけを優遇し、スンニー派は冷遇。これではスンニー派が怒るのは当然だ。
しかも米国は、イラクだけでなく、西の隣国シリアのアサド政権も独裁だと言いだし、シリア国内の反政府勢力にも援助開始。でも、それはアサド政権が反米・反イスラエルの独裁政権だったからであって、本当にシリア国民の人権状況を憂えての事ではなかった。やがてシリアもイラク同様に混乱に陥っていく。
その混乱に乗じて、アフガニスタンのテロ組織であるアルカイダがイラクやシリアでも勢力を拡大。その中で、イスラム国の指導者バルグーディーも、最初はアルカイダの一司令官に過ぎなかったのが、やがてアルカイダをも圧倒するようになり、シリア・イラク国境をまたぐ地域に、「イスラム国」という疑似国家を作るまでになってしまったのだ。
左がイスラム国の旗。右がイスラム国(ISIS)の支配領域(地図の赤い部分)。
以上、イスラム国台頭までの経緯をざっと解説した。欧米諸国は「独裁政権を倒す為」とか言ってこの地域に介入したが、本当は自分達の勢力拡大や利権確保の為でしかなかった。だから、その後の民主化や和平達成も口先だけで、更なる対立を招いただけだった。
日本も、本当に平和国家を自認するなら、こんな欧米と一緒になって更なる対立を招く様な事なぞせずに、「本気で地道に」非軍事的分野で民主化や和平達成に貢献すべきだったのだ。世界各地でNGOがやっている農業支援や医療支援、教育支援などの形で。これこそが真の国際貢献であり、「積極的平和主義」ではないのか。
日本は、中東では東アジアや東南アジアの様な植民地支配で恨まれるような事もなく、イスラム・キリスト・ユダヤの各宗教とも距離を保ち、イスラエル・パレスチナの双方とも付き合いがあり、憲法9条を持つ国として尊敬もされてきた。だからこそ、かつてはイランやイラク、リビアにも、大勢の日本企業の駐在員がいて、各国と良好な関係を維持してきたのだ。しかし、それももう過去の話。日本がただの「米国の犬」に成り下がるにつれ、それまでの親日感情もすっかり色あせ、反日感情にすっかりとって代わられてしまった。
イスラム国には外国からも志願兵が続々とやって来ると言う。今やイスラム国の総勢力約3万人のうちの1万人以上が外国の志願兵だと言う。志願兵の国籍は様々で、欧米人もおればアジア人もいる。志願動機の大半は本国からの脱出願望だ。「本国にいても移民なので差別されるだけだ」「生涯ハケンで一生日の目を見ない」、「そんな国にいるぐらいなら、一層の事、イスラム国の志願兵となって一旗揚げよう」という気持ちになるのだろう。
フランス週刊紙襲撃事件の一味がユダヤ系のスーパーを襲撃したが、その時の容疑者クリバリが育ったパリ郊外の下町のルポ記事が1月20日付の毎日新聞に載っている。その記事によると、そこはアラブ・黒人系の移民が多く住むスラム街で、ピザ屋も郵便配達も救急車も怖がって入って来ないのだそうだ。火事になれば消防車だけが入ってくるのだと。そのスラムに住んでいると分かっただけで、どんなに良い大学を出ても就職できない。履歴書は読まれもせずゴミ箱に捨てられる。そういう差別をずっと受け続けたので、住民はよそ者に対して極度の警戒心を抱く様になった。この記事を書いた毎日の記者も、市場で4人の若者に取り囲まれ命からがら逃げ帰ったそうだ。(末尾写真及びリンク参照。職場新聞版には更に記事コピー添付)
これを読んで真っ先に浮かんだのが、2008年にこの日本でも起こった東京・秋葉原の連続殺傷事件だ。この事件を起こした容疑者も、静岡県内の自動車工場で、派遣社員として働き出したものの、僅か数ヶ月で、いきなり解雇通知書の紙切れ一枚で雇い止めされて、それが事件の引き金になった。この時も、マスコミは自業自得だと容疑者を非難したが、「2ちゃんねる」などのネット掲示板には、逆に「よくやった!」「容疑者を悪く言えるのは何の苦労もせずにヌクヌクと育った奴だ」「生涯ハケンの日陰者でも本当に怒ればここまでの事が出来る」という「称賛」の書き込みがあふれた。
本当に「テロを無くす」と言うのであれば、こういう差別や貧困の土壌こそ根絶しなければならないのではないか。ところが安倍のやっている事はどうだ。「残業代ゼロ法案」でサービス残業の合法化を目論み、「派遣法改悪案」で生涯低賃金のハケンから抜けられないようにしようとしているだけじゃないか。これでは「こんな日本に復讐してやる、それでイスラム国で一旗揚げてやる」と思う奴が出るのも当然ではないか。
もちろん、戦闘員を使い捨てしているという点では、イスラム国も同じだ。イスラム国の統治なんて、「飴とムチ」で住民を脅しつけているだけなのだから。そこには人権擁護の観点なぞ全くない。信者を金ヅルとしかみなしていないという点では、統一教会やオウム真理教などと全く同じだ。
日本のブラック企業もまた、「使い捨て」と言う面では、「イスラム国」や統一教会と全く同じである。その中で「テロの連鎖」を防ごうと思えば、ブラック企業を規制する以外にない。「本気で地道にやる」とはそういう事だ。その根本策に手を付けずに、秋葉原の容疑者だけを「テロとの戦い」で抑えつけても、また別の容疑者が現れるだけだ。「イスラム国」もそれと全く同じではないか。
左が前述の毎日20日付のクリバリ容疑者関連記事。右が秋葉原連続殺傷事件当時の週刊「SPA!」関連記事。
昨日仕事を終えて家に帰ったら、もうこのイスラム国による日本人人質身代金要求の話題で持ちきりだった。NHKなぞ、当初の放送予定を全て差し替えて、このニュースばかり流していた。
イスラム国が、昨年現地で拘束したジャーナリストの後藤健二さん(上記動画の左端人物)と自称・民間軍事会社経営の湯川遥菜(はるな)さん(同じく右端人物)の2人を解放する条件として、2億ドル(日本円換算で約240億円)の身代金を日本政府に要求し、72時間以内に支払わなければこの2人を斬殺すると言うのだ。2億ドルの要求額の根拠は、この直前まで中東歴訪中の安倍首相が、「イスラム国によるテロとの戦い」の一環として、避難民保護や医療支援などの「非軍事分野」を中心に、2億ドルの援助を、イスラム国と戦っている周辺諸国に行うと表明したからだ。(その時の安倍談話がこちら)
今後、どう情勢が変わるか分からないが、現時点で分かっている範囲での情報を基に、この事件に対する私の感想や意見を取り急ぎ述べておきたい。
まず、どう「非軍事分野」での援助だと言い訳しようとも、「イスラム国によるテロとの戦い」の一環として表明した以上は、それはイスラム国にとっては敵対行為以外の何物でもない。いくらこちらが「非軍事分野」限定で援助したつもりでも、金に色なんて付いていないのだから、現地でどう配分されるか分からない。日本政府にとっても、どうせ「言い訳」にしか過ぎないのだから、使い道のチェックなぞ元々する気もないだろう。仮に援助が全額「非軍事」限定で使われたとしても、その分浮いた他の金が戦費に回されるだけだから、イスラム国にとっては軍事援助と同じ事だ。
これも全ては安倍が悪いのだ。後先の事を何も考えず、ただただ自衛隊の海外派兵や集団的自衛権行使の口実作りの為だけに、8千キロ以上も離れた中東に、自分からノコノコ出掛けて行って、わざわざ他国の喧嘩(戦争)を買いに行ったから、こんな事になってしまったのだ。中東歴訪先での安倍の大盤振る舞いや大言壮語に、訪問先でヨルダンのアブドラ国王やイスラエルのネタニヤフ首相から、「そんな事まで言ってしまって日本は大丈夫なのか?」と逆に心配される程だった。その訪問先での杞憂(きゆう)が、早速現実のものになってしまったのだ。
もう、ことここに至っては、もう出来る事は限られている。たとえ他国から「裏切り者」呼ばわりされようとも、身代金を渡して2人を解放してもらう以外には無いではないか。もちろん、それはイスラム国の「脅し」に屈した事になる。何せ相手は「何でもアリ」のイスラム国だ。今後もどんなユスリ・タカリを受けるか分かったものではない。でも、本当に2人を救出しようと思えば、今の時点で出来る事はもうそれ位しかないではないか。
本当はこんな事になる前に、テロの火種を無くさなければならなかったのだ。火の無い所に煙は立たない。テロが起こるのも、民族対立や貧富の格差があるからだろう。だったら元から絶たなければダメだろう。
米国は「イラクがアフガニスタンのタリバンを支援していたから」と言って、イラクに攻め入ってフセイン政権を倒した。確かにフセインは独裁者だった。でも、独裁者は何もフセインだけではない。例えばイラクの隣のサウジアラビアも、国王専制で議会も選挙もない独裁国家だ。でも、親米国家で石油大国のサウジには欧米は何も言わない。何故フセインだけが悪く言われなければならないのか。
その中で、やがて「タリバン支援」も米国のでっち上げた嘘だと分かり、フセインは打倒されたがその後の政権も似たり寄ったりの独裁政権で、イラク国内は更に大混乱。
その中で、本当にテロを撲滅したいのなら、フセインを支持していたスンニー派(イスラム教の多数派)と、そのフセインに弾圧されていたシーア派(同じく少数派)や少数民族のクルド人が、よく話し合って民主的な国にしていく、その手助けを地道にする以外にない。でも、米国のやった事はそれとは正反対。紛争当事者の一方のシーア派やクルド人だけを優遇し、スンニー派は冷遇。これではスンニー派が怒るのは当然だ。
しかも米国は、イラクだけでなく、西の隣国シリアのアサド政権も独裁だと言いだし、シリア国内の反政府勢力にも援助開始。でも、それはアサド政権が反米・反イスラエルの独裁政権だったからであって、本当にシリア国民の人権状況を憂えての事ではなかった。やがてシリアもイラク同様に混乱に陥っていく。
その混乱に乗じて、アフガニスタンのテロ組織であるアルカイダがイラクやシリアでも勢力を拡大。その中で、イスラム国の指導者バルグーディーも、最初はアルカイダの一司令官に過ぎなかったのが、やがてアルカイダをも圧倒するようになり、シリア・イラク国境をまたぐ地域に、「イスラム国」という疑似国家を作るまでになってしまったのだ。
左がイスラム国の旗。右がイスラム国(ISIS)の支配領域(地図の赤い部分)。
以上、イスラム国台頭までの経緯をざっと解説した。欧米諸国は「独裁政権を倒す為」とか言ってこの地域に介入したが、本当は自分達の勢力拡大や利権確保の為でしかなかった。だから、その後の民主化や和平達成も口先だけで、更なる対立を招いただけだった。
日本も、本当に平和国家を自認するなら、こんな欧米と一緒になって更なる対立を招く様な事なぞせずに、「本気で地道に」非軍事的分野で民主化や和平達成に貢献すべきだったのだ。世界各地でNGOがやっている農業支援や医療支援、教育支援などの形で。これこそが真の国際貢献であり、「積極的平和主義」ではないのか。
日本は、中東では東アジアや東南アジアの様な植民地支配で恨まれるような事もなく、イスラム・キリスト・ユダヤの各宗教とも距離を保ち、イスラエル・パレスチナの双方とも付き合いがあり、憲法9条を持つ国として尊敬もされてきた。だからこそ、かつてはイランやイラク、リビアにも、大勢の日本企業の駐在員がいて、各国と良好な関係を維持してきたのだ。しかし、それももう過去の話。日本がただの「米国の犬」に成り下がるにつれ、それまでの親日感情もすっかり色あせ、反日感情にすっかりとって代わられてしまった。
イスラム国には外国からも志願兵が続々とやって来ると言う。今やイスラム国の総勢力約3万人のうちの1万人以上が外国の志願兵だと言う。志願兵の国籍は様々で、欧米人もおればアジア人もいる。志願動機の大半は本国からの脱出願望だ。「本国にいても移民なので差別されるだけだ」「生涯ハケンで一生日の目を見ない」、「そんな国にいるぐらいなら、一層の事、イスラム国の志願兵となって一旗揚げよう」という気持ちになるのだろう。
フランス週刊紙襲撃事件の一味がユダヤ系のスーパーを襲撃したが、その時の容疑者クリバリが育ったパリ郊外の下町のルポ記事が1月20日付の毎日新聞に載っている。その記事によると、そこはアラブ・黒人系の移民が多く住むスラム街で、ピザ屋も郵便配達も救急車も怖がって入って来ないのだそうだ。火事になれば消防車だけが入ってくるのだと。そのスラムに住んでいると分かっただけで、どんなに良い大学を出ても就職できない。履歴書は読まれもせずゴミ箱に捨てられる。そういう差別をずっと受け続けたので、住民はよそ者に対して極度の警戒心を抱く様になった。この記事を書いた毎日の記者も、市場で4人の若者に取り囲まれ命からがら逃げ帰ったそうだ。(末尾写真及びリンク参照。職場新聞版には更に記事コピー添付)
これを読んで真っ先に浮かんだのが、2008年にこの日本でも起こった東京・秋葉原の連続殺傷事件だ。この事件を起こした容疑者も、静岡県内の自動車工場で、派遣社員として働き出したものの、僅か数ヶ月で、いきなり解雇通知書の紙切れ一枚で雇い止めされて、それが事件の引き金になった。この時も、マスコミは自業自得だと容疑者を非難したが、「2ちゃんねる」などのネット掲示板には、逆に「よくやった!」「容疑者を悪く言えるのは何の苦労もせずにヌクヌクと育った奴だ」「生涯ハケンの日陰者でも本当に怒ればここまでの事が出来る」という「称賛」の書き込みがあふれた。
本当に「テロを無くす」と言うのであれば、こういう差別や貧困の土壌こそ根絶しなければならないのではないか。ところが安倍のやっている事はどうだ。「残業代ゼロ法案」でサービス残業の合法化を目論み、「派遣法改悪案」で生涯低賃金のハケンから抜けられないようにしようとしているだけじゃないか。これでは「こんな日本に復讐してやる、それでイスラム国で一旗揚げてやる」と思う奴が出るのも当然ではないか。
もちろん、戦闘員を使い捨てしているという点では、イスラム国も同じだ。イスラム国の統治なんて、「飴とムチ」で住民を脅しつけているだけなのだから。そこには人権擁護の観点なぞ全くない。信者を金ヅルとしかみなしていないという点では、統一教会やオウム真理教などと全く同じだ。
日本のブラック企業もまた、「使い捨て」と言う面では、「イスラム国」や統一教会と全く同じである。その中で「テロの連鎖」を防ごうと思えば、ブラック企業を規制する以外にない。「本気で地道にやる」とはそういう事だ。その根本策に手を付けずに、秋葉原の容疑者だけを「テロとの戦い」で抑えつけても、また別の容疑者が現れるだけだ。「イスラム国」もそれと全く同じではないか。
左が前述の毎日20日付のクリバリ容疑者関連記事。右が秋葉原連続殺傷事件当時の週刊「SPA!」関連記事。
(映像で)日本の首相よ。お前は「イスラム国」から8500キロ以上も離れているのに、自ら進んでイスラム国に対するこの十字軍に参加した。私たちの女性や子どもを殺し、イスラム教徒の家を破壊するために、誇らしげに1億ドルを供与した。よってこの人質(後藤健二さんとみられる男性)の命は1億ドルだ。さらにイスラム国の拡大を防ぐ目的でムジャヒディン(イスラム聖戦士)に対抗する背教者の訓練に1億ドルを供与した。よってこの日本人(湯川遥菜さんとみられる男性)の命にはさらに1億ドル掛かる。
日本の国民よ。日本政府はイスラム国に対する戦いに2億ドルを払うという愚かな選択をした。お前たちは人質の命を救うために、2億ドルを支払う賢い決断をするよう、政府に迫る時間が72時間ある。さもなければ、このナイフがお前たちの悪夢となるだろう。
http://mainichi.jp/select/news/20150121k0000m030012000c.html
イスラム国は映像だけでなくメッセージも日本に送ってきた。上記がそのメッセージ訳の全文だ。このメッセージは二段構えになっていて、政府宛のメッセージとは別に日本国民宛のメッセージもある。国民宛のメッセージも、「安倍政権を支持・黙認する以上、お前ら日本国民も政府と同じ穴のムジナだ」という前提の下に、「政府に身代金支払いの圧力をかけろ」と暗に要求する内容となっている。
私はこれを見て、最初は「何て傲慢な言い回しなのか」と感じた。英語のyouを「あなた」ではなく「お前」と訳したから余計にそう感じたのかも知れないが。しかし、その点を除いても、安倍・自民党支持者だけでなく、支持していない私の様な国民まで、何故「同じ穴のムジナ」と見られなければならないのか?はっきり言って、今でも不愉快な気分なのは確かだ。
でも、その一方で、「イスラム国からすればそう見られても仕方ないな」という気持ちも、次第に頭をもたげてきた。その理由は、安倍が、イスラム国掃討作戦支援の文脈の中で発言した事や、アラブ・イスラム諸国からすれば敵でしかないイスラエル国旗の前で発言した事だけではない。
それは、「日本の難民支援は非軍事目的だ」と、政府だけでなくマスコミも宣伝し、国民もそれに何の疑問も持たず受け入れつつあるからだ。でも、イスラム国の目からすれば、それは欺瞞以外の何物でもない。
日本が欧米に追従し、本心から「テロとの戦い」に参戦するつもりなら、何も「非軍事だ」と言い訳なぞせず、最初から「イスラム国と戦う為だ」と堂々と宣言すれば良いのだ。そうではなく、「テロとの戦い」になぞ協力できないのなら、最初から介入なぞしなければ良いのだ。イスラム国の目からすれば、そのどちらかしかあり得ない。
でも、日本政府は、自らも「テロとの戦い」に加わりながら、「これは戦争目的ではない」と言い逃れに終始している。それがイスラム国からすれば、とてつもなく卑怯な態度に見えるのだろう。
それは私も感じる。安倍の改憲・軍拡路線を支持・黙認しながら、自分の都合の良い時だけ平和主義者ぶるのは、誰が見ても醜いものだ。改憲賛成なら賛成、反対なら反対と、最後まで旗幟を明らかにしてくれた方が、まだしもイスラム国としても対処の仕様があると言うものだ。でも、こんなご都合主義で来られると、「何て卑怯な奴等なんだ」というマイナスイメージしか相手には伝わらない。
同じ事はこの間の日本国内における自己責任論の広がりにも言える。本当に後藤さんや湯川さんの事を自業自得と謗るなら、別に2人が斬殺されようが構わないはずだ。別に集団的自衛権行使や自衛隊海外派兵の方向に世論が傾く理由にはならないはずだ。
逆に、絶対に2人を救出しようと本気で思っているなら、昨年に拘束事件が発覚した時点で、解決に向けて動き出していたはずだ。中田氏や常岡氏など、イスラム国幹部ともコンタクトの取れる人物もいる訳だし、NHKですら比較的容易にイスラム国の広報担当とコンタクトが取れた中で、政府だけが今頃になっても周辺国の仲介頼みでイスラム国と交渉の糸口も掴めないなんて事は、普通常識で考えてもあり得ない。
本当は「人質の人命優先」なんて口先だけで、「早く人質が処刑されて自衛隊派兵の口実が出来れば良い」と言うのが政府の本音ではないか。一体日本と言う国はどこまで二枚舌なのか。それに積極的に異を唱えない国民も、イスラム国からすれば「同じ詐欺仲間でしかない」と取られても、ある意味仕方ないのかも知れない。
ひょっとしたら、イスラム国は単に身代金が欲しいだけで、ここまで考えていないのかも知れない。でも、イスラムの事をほとんど知らない私ですらそう思うのだから、それはイスラム国にとっても同じではないか。いずれにしても、この事件は、単なるテロや人質事件の範疇を超えて、ある意味、「日本国民の誠実性」も世界から問われているのではないだろうか。