人を大事にすること自体が、フロイトにとってはあり得ないことだった、と言います。
p84第2パラグラフ。
しかしながら、人から大事にされるのは性的な魅力の結果である、とか、人から大事にされることは性的な満足同様、意識的な気持ちを反映している、とか、という考え方に対してフロイトの影響を大きく見過ぎるとしたら、間違いになるでしょう。本質的に、因果関係は別なんですね。フロイトの考え方は、19世紀の精神にも影響されていました。フロイトの考え方が一般的になったのは、第一次世界大戦後の世界の精神になったからでもあります。一般大衆の考え方とフロイトの考え方の両方に影響した要素は、第一に、ヴィクトリア時代のお堅い道徳に対する反発です。フロイト理論を決定した第二の要素は、人間に対する普遍的な概念です。つまりそれは、資本主義の構造に基づいた概念でした。資本主義が人間に内在する種に応じていることを証明するためには、人間は根っから負けず嫌いで、憎しみ合っていることを示さなくてはなりません。
フロイト理論には、歴史的な必然性があった、ということでしょう。前世紀19世紀のヴィクトリア時代のお堅い道徳に対する反発があり、また、勃興期にあった資本主義が前提にしている人間、すなわち、負けず嫌いで、お互いに憎しみ合っている、ということから、フロイト理論は出て来た、とフロムは言います。
時代の要請で出て来たフロイト理論は、時代にフィットするという美点かあると同時に、事態に制約されやすいという欠点の両方を持つことが、必然的に結果として生じざるを得ませんね。
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