2012年『エリザベート』心の奥底では死を求めつつその時々で行き着けずにいる姿をしっかりと描き出したい-春野寿美礼さん
(2012年『オモシィ・マグ』創刊号より)
「『エリザベート』は自分を成長させてくれる、とても大切な作品-瀬奈じゅんさん
瀬奈エリザベートが帝劇に帰ってきた。2年前、この作品で、彼女は宝塚の男役トップスターからミュージカル界の大女優へと変身を遂げた。その記念すべき役、深い縁のある作品に、瀬奈さんは再び挑んでいる。
ミュージカル『エリザベート』と、瀬奈じゅんとの関係は深い。宝塚時代は男役ながらもエリザベート役にキャスティング(2005年)された他、ルキーニ役(02、03年)、退団直前の公演ではトート役(09年)も演じた。
東宝版で、ふたたびエリザベートを演じることになったのが、2010年-。宝塚退団後、初の出演作となる同作で、タイトルロールとして、2か月の公演を駆け抜けた印象を、瀬奈はこんな風に語った。
「公演全体のことですと、無事に千穐楽を迎え、一安心しました。私個人としては、毎回毎回、一生懸命にエリザベートを演じていましたが、いま振り返ると、もっともっとできることがあった気がするという気持ちです」
前回に引き続いてのエリザベート役となる今回は、一度、演じたからこその欲もあれば、前回以上にエリザベートの人生をしっかりと生きたいというプレッシャーもある。瀬奈は続ける。
「やりたいことは本当にたくさんありますが、とくに今回は、前回よりももっとストィックな恍惚さを出していきたいと思っています」
稽古期間中、ソウルで上演されていた(2012年2-5月まで上演)、韓国陣キャストによる『エリザベート』」も観劇した。
「キャストの歌唱力に圧倒されました。それに、韓国版のエリザベートは、完全な韓国ミュージカルになっていたんです。いままで心のどこかで感じていた“外国から輸入したミュージカルをやっている”という想いが一瞬で払拭されるほどの衝撃でした。そして、日本のミュージカル、日本版のエリザベートを目指さなければいけないと、改めて心に誓いました」
東宝版シシィに初めて挑んだ前回以上に、瀬奈は自らに高いハードルを課していた。演出の小池修一郎に言われた、「ゼロから学び直す姿勢は謙虚で良いことだけれど、宝塚で主演女優をやってきたという誇りと自信まで消すことはない」という言葉を胸に、瀬奈は新たな、そして、とてもエキサイティングな挑戦に挑んでいる。
しかし、今回のカンパニーには心強い同志がいる。宝塚花組時代、名コンビといわれていた春野寿美礼だ。花組時代にルキーニを演じた際、エピローグではトート役の春野からナイフを受け取った経験もある。
「春野さんとご一緒させていただくのは、すごく楽しいです。楽しいだけでなく、本当に素敵な声で、ブレスや声の伸ばし方など勉強させていただいています。お互いにいい影響を与え合い、よりよりものを作れていければ、と思っています。それにー」
新たな挑戦に向けて決意をにじませながら、瀬奈は春野の少し意外で、キュートなエピソードを教えてくれた。
「春野さんは本当にかわいらしくて、いつも一緒にいたがるんですよ。トイレにまで一緒に行きたがるくらい。先輩に対してこういう言い方は失礼かもしれませんが-、やっぱりかわいいです」
エリザベートと正面から対峙するトート役の3人の俳優に関しては、「山口さんは包容力、石丸さんは支配力、マテさんは吸引力のあるトートといった印象を持っています」と語る。それぞれ異なる個性を放つトート役との関係により、瀬奈のエリザベートがどのように変化していくかも、楽しみなところだ。
彼女自身に、今回の「瀬奈エリザベート」を表現してもらった。
「意志の強さと繊細さ、でしょうか」
大人な部分と子どもの部分のギャップも似ている、とも自己分析する。宝塚時代、男役でありながらのシシィを経験したこと、そして、トップとして走り抜けてきた経験によるものだろうか、彼女のシシィの持つ強さともろさのバランスは絶妙だ。自分の思いのままに生きる決意をした瀬奈のシシィは、表情だけでなく、声も、変化していった。私には自由に生きることが許されているのだと全身で主張しているような彼女のシシィは、結末がわかっている観客にさえも、もどかしさや不安、ぞくぞくとした興奮といったさまざまな感情をもたらす。
初めてシシィ役を演じてから約7年、前回公演から約2年-。また、新たな経験を重ね、彼女のシシィはどう変化しているのだろうか。
「何度演じても、やるたびに新鮮で、新たに感じるものがあります。自分を成長あせてくれる、とても大切な作品です」
約3時間にわたって語られる、エリザベートの60年を超える人生には、演じる俳優自身の人生や経験もが否が応にも投影される。2012年の瀬奈じゅんのエリザベートは、どのように迷い、決断し、人生を生き抜くのか。劇場という空間で、エリザベートの、瀬奈の生きざまを見届けたい。」