『アグルーカの行方 129人全員死亡、フランクリン隊が見た北極』 角幡唯介(集英社)
19世紀の探検家ジョン・フランクリンの隊が北極で全滅したといわれているが、本当にそうなのか? 彼らの足跡をたどり真実を求めた角幡唯介氏、そして同行した北極探検家、荻田泰永氏の1600キロに及ぶ徒歩の探検記である。
ジョン・フランクリン隊は北極の餓死の入り江で文字通り餓死して全滅したと思われていたが、生き残った3人が南下していったというイヌイットの証言があった。その中にアグルーカがいたと。アグルーカとは、誰なのか? イヌイットは、大またで歩く、リーダーを“アグルーカ”と呼び、それがジョン・フランクリンだったり、あるいは彼の副官だったフランシス・クロージャーだったり、同時期にこの地を探検していたジョン・レーだったりと何人かの探検家をこう呼んでいた。では、いったい南下していったアグルーカは誰だったのか?
その推論は、本の巻末で展開されている。そこにいたるまでは、フランクリン隊の行動の軌跡と自分たちの探検の軌跡をシンクロさせながら、話を進めていく。
角幡隊探検行の前半は、ひたすら氷と雪の世界。ソリに荷物を満載して延々と引っ張り続ける究極の歩荷だ。ときには乱氷帯に苦しんだり、クリーム色の人(ホッキョクグマ)に脅かされたりする。日に5000キロカロリーを摂取していたと書かれているが、それでも著しく低い気温と、激しい運動によって、身を削っていくことになる。絶えず空腹の状態にあったと書いている。
あるとき、腹を満たすためにジャコウウシを狩る。とどめを刺したその母ウシの傍らには子ウシがいた。残酷ではあるが、人間が生きていくうえで他の生命を犠牲にしなければならないという至極当たり前の事実がそこには横たわっていた。
後半は春になり、雪や氷がどんどん消えていくツンドラ不毛地帯を行く。荷物を背負って歩き、ボートを持参し川をも渡る。野生の鳥たちの卵を採ったり、巨大なレイクトラウトを釣ったりと楽しげだが、不毛地帯というだけあって、ぬかるんだ泥、激しい川の流れ、そして解けはじめた氷に行く手を阻まれ、難渋することになる。
この本は、ただの冒険記ではないところがいい。角幡氏の冒険譚を面白おかしく読む、そして19世紀のフランクリン隊がどんな探検をしたのかを想像しながら読む、二重に楽しめるのだ。さらに角幡氏の冒険の相棒、荻田氏の著作も読めば、興味は深まるのだろう。
参考:
当ブログ「探検家ジョン・フランクリンの生き方『緩慢の発見』
http://blog.goo.ne.jp/aim1122/d/20140215
北極探検家荻田泰永のページ
http://www.ogita-exp.com/
アグルーカの行方 129人全員死亡、フランクリン隊が見た北極 集英社学芸単行本 | |
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