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山の神にお供して歩きつづける、ある山のぼら~の記録。ネイチャー、冒険の本もとりあげるよ。

江戸時代のお伊勢参り『歩く江戸の旅人たち』

2020-05-24 | 山・ネイチャー・冒険・探検の本


『歩く江戸の旅人たちーースポーツ史から見た「お伊勢参り」』谷釜尋徳(晃洋書房)

江戸時代にお伊勢参りをするには、田中陽希さんのように延々歩いていくほかない。想像すると気が遠くなるのだが、意外にも庶民は一生に一度はお伊勢参りと、チャンスあらば行きたいと願っていたようだ。

そんな念願かなって旅した江戸時代の記録が多数残っていて、そこからどのような旅をしていたのかを調べたのがこの本。そもそも街道がきちんと整備されていなければ、旅など論外なのだが、徳川治世で参勤交代などもあったおかげで交通の便はよくなり、宿場町が発展し、庶民も泊まれるようになった。

この本では、旅のルートや履物や持ち物などの身支度、費用、当時の日本人の歩き方など興味深い話が詰まっている。

まずルートは、お伊勢参りといいつつ、富士山に登ったり、京都まで足を延ばしたりということが間々あったようだ。一生に一度の旅行だからなるべく欲張っての旅程だ。ただ欲張った分、歩行距離も伸びる。平均して2000Km以上は歩いているが、東北からの長丁場となると、3000Kmを優に超える。その距離を2~3か月かけて移動していく。1日平均30Km強の歩行で、雨が降ったり、川が増水して渡れなければ停滞するから、かなりハードだ。1日最長で60~70Kmくらい歩いていることもあるから驚かされる。

面白いのは、旅の記録に時間が出てくることだ。当時は日時計を携行していたようだが、日が照っていなければ、使うことはできない。各宿場町では、鐘を鳴らして時刻を伝えるのが常で、その鐘の音を聞いて、明け六つ(日の出頃)だ、暮れ六つ(日没頃)だと認識していたようだ。

お金はどうしたかといえば、大店(おおだな)の若旦那は別として、庶民は講を編成して寄付を集め、代表者たちが旅をしてお参りし、講の参加者全員分のご利益を受けてくるとしていたようだ。一例として紹介されていたのは、旅籠代や食費、交通費(川の渡し賃、籠代)などすべてひっくるめて、旅費は35,771文。磯田道史先生によれば、現代感覚で銭6300文(金1両)≒約30万円(現代感覚でざっくり)だから約170万円となる。なんとか工面できそうな額ではある。

ほかに草鞋(わらじ)の購入や、日本人のナンバ歩きをとり上げていて興味は尽きない。ただ旅の面白いエピソードをとり上げていたり、弥次さん喜多さん的な登場人物が出てきたりということはないので、盛り上がりには欠ける。エンタメ要素を期待してはいけない本なのだ。丹念に資料にあたって事実を積み上げた実直な本。江戸時代にタイムスリップしたつもりで自分が行くことを想定して読むと、ちょうどいいのかもしれない。
 
 

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