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書店に行くまでに小さな橋があり、その橋に差し掛かると我慢出来ずにページを開いて読み耽った。
空は次第に色を変え、白く光る星が出る。
そんな光景と共に、菊池寛の『恩讐の彼方に』や 『父帰る』が記憶に残っている。
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『無名作家の日記』は、菊池寛が一高を追われ、京大に学んだ頃の日々が綴られている。
脚色はあるものの、ほぼ自伝と見ていい。
一高を追われた理由は、友達の罪を被った為で、彼の侠気がそうさせた。
一高の頃、芥川龍之介や久米正雄と共に同人誌を作っていた。
才気ほとばしる秀才の芥川や、都会的な久米に対して、四国の田舎出身で貧乏な菊池は、コンプレックスを覚える事が多かった。
作品中の主人公は「今に俺もあっと言わせる小説を書いてやる」と心に誓う。
雅な京の都は、作品を書くのに有利だとか、懸命に自分を奮い立たせている。
そこで描かれる、芥川や久米は才能があっても冷たい人間である。
一緒に励まし合う友達でなく、蹴り落としていくライバルなのだ。
中学生の私は小説家の世界など分からず、主人公に肩入れしてた。
しかし、考えてみれば当然で、売り出し中の新人に仁義がある訳もない。