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ギョッとした奈美が振り向くと黒メガネをかけた黒マスク姿の男がヌッと背後に立っていた。奈美はその姿をよく確認しようと目を細めた。
生憎奈美は近眼で相手の姿を確認出来ない。ただ不法侵入した怪しい男であるのは確かだ。
咄嗟に彼女はスマホを手にかざして大声で叫んだ。
「私に手出ししたらこのスマホが作動して警察に通報する事になってる(必死の嘘である)よ。きちんと鍵のかかった部屋に入り込むアンタ誰なのよ!」
「ピッキングしにくい鍵作ったんだもんね。そのドアを開けるとすれば、それは鍵を持ってる人間だろうな」
「エッ!」
男は笑いながらマスクとメガネを外した。
「あなた」
「その通り、お前の亭主だよ」
背の高いその姿も公務員にしては些か乱暴な口調も、奈美の夫のものである。
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健康そうな拓の顔は奈美のそれの直ぐ上にあって、次の瞬間そのままの姿で奈美は強く抱きしめられた。
「驚かせてごめんな。ともかく俺の正体が分かったらヤバいからこっそり入るしか無かった」
男は低く呟く。
「ヤバい?何が?自分の家に帰って来たんでしょ」
今近所の家族は全員出かけてる。ややホッとして奈美はホッとした。誰にも知られる心配はない。
頭の隅であらゆる想定をしながら、あまり突然の展開に奈美は騙されてる気分になった。
「ひょっとしてな-り-す-ま-し?」
「何考えてるんだ。、、ともかく悪いけど飯の支度してくれない。腹減ってるんだけど」
奈美は急いで有り合わせの食材を調理してテーブルの上に並べた。
気持ちのいい食欲を見せて拓は全て平らげた。
その食べ方を見て
「痩せの大食い、、」やっぱり拓だった。
安堵と疲れが同時に襲って奈美はヘタヘタ椅子の上に座り込んだ。
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「長い事苦労かけたね」
しばらくして拓はぽつりと言った。
「すぐに人に話せない事情があって、ある人物にずっと匿われていた。お前はとても正直な人だから誰かに喋り出されたら困るからね。その代わりずっとお前の事はお世話になった人が気をつけてくれていた」
「???」
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「今まで先が見えないので失踪という形をとっていた。やっと先が見えて帰る事が出来た」