読書の森

甦り



夜の桟橋は、6月の湿った風が吹いていた。
暗い海はゆったりとした波が寄せていた。

金曜日の11時、何処か華やぎがあった。
事件は突然起こった。
空色のクーペが海沿いの道を軽やかに走っていた。
それが、気が狂った様にフェンスに突進して、真っ逆さまに海に落ちていったのだ。

幸い目撃者が通報して、中の男女が救出されるのは早かった。

男は東野隼人、女は吉田佳菜、会社の同僚である。

いち早く車のドアを開けて泳いで逃げた東野は無傷だった。
今夜一晩安静にすれば、退院である。
ただし飲酒運転による過失を事情聴取される事は確実である。


大方恋人同士がデートして、酒を飲んだのだろう。
いい気持ちで運転してる内に事故が起こったと見られる。



一方、佳奈は人事不省の重体だった。
衝撃でフロントガラスに胸を強く打ちつけ、元々弱い心臓をやられたのである。
血管が切れ危篤状態だった。
辛うじて弱い呼吸をしている。

集中治療室のベッドで酸素吸入器を付けられて、佳奈は人形の様に横たわっていた。

閉じた瞼の形でつぶらな目をしている事が分かる。
栗色の長い髪が痛々しい程乱れていた。

医学生の村上翔は患者の顔を見て心臓が止まりそうになった。

「この女性は幼馴染だった吉田君だ。
ずっとずっと憧れてた俺のマドンナが死にかけてる。そんな馬鹿な!」
翔の頭がパニックになった。

読んでいただき心から感謝いたします。

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