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日朝友好の碑が都内の公園で今もひっそり立っている。
戦後間もない頃、ユートピアを夢見る事の出来た時代にたてた。
大学に入った年、私は学生運動勧誘の一環として、朝鮮の映画を見せら
れた
豊かに実る作物、笑顔の人々、どこか別世界を思わせる強い連帯感。
何も考える事なく見ていた。
大学時代の私にとって、人種の違いなどどうでも良かったし、わざわざ何故こんな映画を見せるのかなとしか思わなかった。
その程度の政治意識しか持たなかったのである。
その頃、李恢成は30代で芥川賞をとった。
後に、在日の大学生の苦悩と恋愛を描いた「伽倻子のために」を上梓するのである。
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長い朝鮮戦争が終わり、北と南に分断する前を私は知らない。
知っているのは、「朝鮮の人」への偏見が根強く残る日本の社会である。
戦後生まれのプライドのある在日の人にとって、これは不当な差別としか思えないだろう。
しかし、金のために自らの出自を隠して、日本社会の勤勉な企業戦士として働いた人が多い。
『伽倻子のために』の主人公は優秀な学生だった。
優秀であるが故に、出自を公表せず生活していたが、次第に民族意識に芽生える。
伽倻子とは、彼が実家のある北海道あった薄幸な少女である。
可憐で傷つき易く、抱きしめたくなる程かわいいのに、人を近づけない陰がある。
その少女に付き纏う暗い陰は何なのか?
帰省する度に成長していく少女に逢い
、孤独な二人の魂は近づく。