読書の森

猫のデモンストレーション



その人は20代の健康そのものの独身男性だった。
友人に紹介されて交際を始めた。
いかにも実直で武骨なごく普通の会社員だった。

私にとって初めての交際らしい交際である。
当時私は30をとっくの昔に越していた。
男友達とか好きな人とか、好きになってくれた人はいた。

皆いわゆるエリートだった。
そして鋭敏な神経を持っていた。
どうも私の神経はそれに呼応し過ぎるようで、大人の恋愛など出来ない。

せいぜい形而上の事で悩みで病気になるか、病気になるのが嫌で離れてしまうかだった。
勿体ぶらずに言えば失恋ばかり繰り返した。



困った事に、友人も彼も私の歳を知らない。
実は彼は私より8歳年下だった。
彼はせいぜい同年代と思っていたようだ。

今でこそ8年の年の差は問題視しないが、昭和50年代の感覚では障害となった。

彼は私と二度ほどデートした。
あっけないほどアッサリしたデートである。
映画を見に行くつもりが、日比谷公園で光を浴びた木々の葉を眺めたり、あまりにご清潔なデートで、彼は私に気がないのかと思った。

ところが、その時点で彼は本気だったらしい。

読んでいただき心から感謝です。ポツンと押してもらえばもっと感謝です❣️

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