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読書の森

違う!理屈に合わん!

昭和の時代、夏季休暇で母の実家に行った時の事です。
大きな屋敷は今は跡形も無くなっています。堀割があって蔵がある、そのくせ母屋の部分が壊れて離れで暮らしてる、それは古い家でございました。

叔母と祖父母が住んでおりました。水と空気が澄んで美味しい、タイムスリップ出来るところです。

その牧歌的な環境に似合わず(?)祖父母はしょちゅう口喧嘩してました。
祖父はお人好しでどちらかと言うと口が軽いです。
昔は友人と遊び場で楽しくお喋りを交わしたのですが、田舎に隠遁して70歳を越えた当時は話相手は妻しかいません。

軽い世間話をつい漏らすと、妻(祖母)はいい加減に聞き流さない。
返った言葉は
「違う、それは理屈に合わん!」でございました。ニベもありません。確かに夫婦の会話なんてきちんと理屈に合わせた話でないと思いますけど。
聞くなり祖父は不機嫌な顔して黙りこみます。
このやり取り今に始まった事ではないらしい。
私はビックリして祖母の顔を見つめてしまいました。化粧っ気のないひっつめ髪の彼女はしごく真面目な表情をしてます。

祖母は飛び抜けて理屈っぽい人でありました。
そして同時代の女性としては最高学府を出た珍しい存在だったのです。
戦前の滋賀女子高等師範学校を出て、小学校教師をしていたところ、遊び好きの祖父の品行を正す為に周囲の勧めで、代々の庄屋の家に嫁いだのであります。

小学校の先生をしていた時、祖母は明るくて子供に慕われたそうです。
仕事が性に合ってたのでしょうね。伸び伸びした独身時代から、主婦の座に就いてビックリしたのが祖父の浮気らしい。
それでも嫉妬は見っともないというプライド(?)があったらしく、ひたすら忍耐の日々が続きます。その中で6人の子どもに恵まれます(ここが私には不思議なのですが)。

家事育児をきちんとこなし、近所付き合いも真面目にしたらしいけど、多分普通の主婦と話が合わなくかったのではないかと思います。

祖母には決定的に他の主婦と異なる点があるからです。
祖母は、幼い頃、子孫の絶えるのを極端に恐れた親戚の養女にされたのです。
おそらく人一倍健康で利発だったからだと思います。
ところが、皮肉な事にその後実子の男子が誕生したとか。

今さら実家には戻せない、そこで養父母は寮生活をさせ、高等教育を受けさせたのです。
経済的にも困らず教育もたっぷり受けたけど、並の実父母の愛にも養父母の愛にも恵まれてないのです。

当時高等教育を受けた女性の職業はごく限られて教師以外になかったので教師になったら祖母に向いてみたいです。

母も私も男女関係(?)についてかなりトンチンカンで幼稚なのですが、祖母のそれは幼稚と言うより窮屈そのものでした。
凡そ可愛くないし、つまらない。

正義感や道徳感は並以上だし(戦時中お国の為に持ってる宝飾品や貴金属を洗いざらい供出してます。普通の主婦は隠してたらしい)、家事育児もしっかりして倹約家なのですが、清潔感を保つ以上のオシャレなど全くしません。

これに母は反発して化粧は絶やさずオシャレだったし、子どもは自由放任が良いと思ったのでしょうね(子どもから離れないけどこうしろと強制する事は一切なかったのです)。

その子の私がこの母に反発して質実剛健でスッピンを好んだのですが、建前では運命は動かせないですね。



この凡そ可愛くない祖母が切ない本音を漏らした事がありました。

あんなに喧嘩ばかりした祖父ですが、亡くなった後とても寂しくなったらしいです。
その頃、田舎に遊びに行って、一緒の座敷に休んだ事がありました。
古いアルバムを出して、祖母の妹(私には大叔母です)の写真を見せてもらいました。
そしてビックリした。
「なんて可愛い❤️」と言いたくなる程綺麗いなヒトです。ひとつひとつの顔の造作やスタイルの形は大した違いはないのに、どこが違うのか、ブスッとした祖母と大違い。愛嬌がある笑顔は素敵です。実はこの人、新婚早々で病いに倒れ早逝したそうです。美人薄命そのものです。

「なんで同じ姉妹なのにこの子は親に可愛がられて、ご主人に可愛いがられて、綺麗なまんまで死んじゃったんだろう。誰にも愛されない私は不幸だった」
そう愚痴って80歳近い婆様が側でホロホロ泣くのです。
ああ、あんな頭の良かった人で近所から一目置かれてるのに、とうとう呆けちゃったのかしら?
と未だ若かった私は呆然としてましたが、これが「女」の本音かなあと今思えます。

どうなんでしょうかね。

ちなみに祖母が最後まで好きだったTV番組がクイズもの(しかも知識を競うもの)です。
これは母にも私にも遺伝しております。
どうもモテるモテないに拘らず、女性としてズレてる家系のようです。
今の若い女子見てるとどうも同感する点が多いのです(怒られるかしら?)

読んでいただき心から感謝いたします。

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