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読書の森

創作 心理分析 その2

非常に印象的な被疑者がいた。
その若者は大学生で一年の時に両親を亡くし、急遽アルバイトと奨学金で暮らしを立てていると言うことである。
確か黒木宗という名前だった。いかにも怜悧な印象で逆に彼から拓の心理を探られている感じがあったからだ。

一通り、黒木の家庭事情を聞いた後拓は同情を込めて言った。
「それは大変だな。金がなきゃ好きな彼女もついてこない(俺もないけど、、)。
遊ぶ金欲しさについ悪い事したって訳なんですか?」
黒木はもどかしげに眉をしかめた。
「違います。全然!僕はやってない。
遊ぶ金が欲しい若者が振り込め詐欺グループとすぐ結びつくっていうのは短絡的発想だ」
黒木は鋭い目つきで睨み返した。

元々、彼が被疑者となったのは、詐欺事件の発端が黒木宗名義の携帯番号でかけられたからに過ぎない。
又、彼が新宿歌舞伎町の麻薬売人がたむろす地域をうろついてたのが防犯カメラの映像が残っていた為に、任意の事情聴取する事に決めたのだ。任意と言っても嫌がる男を無理矢理尋問している形である。

調査の結果、その携帯の所在は不明で、それ以前に黒木自身が紛失したという届けを最寄りの交番に提出していた。
又普段行かない歌舞伎町の裏手に出かけたのはその日だけで、友人を探して道を間違えただけと彼は言う。又、念のための薬物検査の結果彼に陽性反応は全く出ていない。

その後、丁重な詫びを入れて彼は釈放された。




しかし、と拓は考える。
黒木は頭の良い男だ。

金に困った彼がこの犯行に手を染めた場合、当然無罪となる工作をするに違いない。
携帯など中古でいくらでも安く買える。必要な情報さえバックアップしておけば、捨てる事は簡単である。捨てておいて落としたと届けるのも簡単だ。
人出の多い盛場でヤクの取り引きをすると振り込め詐欺の犯人も特定するのが難しい。

拾得物の携帯を使ってヤクを得る為に振り込め詐欺のアルバイトをした正体不明の若者という構図を黒木が演出する可能性はある。

その盛場を彼がたむろしていたのは、果たして友人を探す為なのだろうか?
なるほど彼の大学は新宿方面にあり、動き易い場所ではあろう。飲み友達と待ち合わせてはぐれる事はあり得る。
しかし、約束したからと言って黒木の様な男が闇商売の蔓延るこの裏角に来るだろうか。

拓は勤務時間外に単独で黒木の捜査を続けていた。黒木の犯行の裏付けをとりたい為だけである。なによりもスッキリしない謎を解き事実を知りたいのである。













読んでいただき心から感謝です。ポツンと押してもらえばもっと感謝です❣️

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