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『とり残されて』はあまりにも有名な作家、宮部みゆきさんの作品集である。
彼女は華やかな実績と裏腹に、非常に堅実派な事を知った。
ある雑誌の対談で「後どれ位書いたら老後安心に暮らせるか?」と冗談めいて語った。
ふと流行作家の素顔を垣間見る気がした。
個性豊かな著作の中で私が一番好きなのは、『火車』である。
火車とは地獄をゆく車、作者も何処かで地獄を見たのかも知れない。
それ程作品の世界は深い絶望がある。
それを昔ながらの人情が救ってる形が多い。
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さて、『とり残されて』は『火車』の発行直後に刊行された。
収められた全ての作品が、見えないもの、死後の世界、現実を超えた世界を描いている。
その中でも、『たった一人』は、限りなく時空を超えた世界を描くラブストーリーだ。
SFではない宮部みゆき独得の小説になっている。
「作者はひょっとしたら予知能力者ではないか?」そう思わせる何かが小説にある。
それは、あまりにも確信的に人が変えられる未来を予言するからだ。