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「おじさん、何処の誰なの?どうしてここに来たのさ」
男は渋く笑って
「君は上田さんだろう?
僕は君のお母さんの友達なんだよ」
お母さんもずいぶん素敵な友達がいるんだなあと、陽子は男に見とれた。
「お母さん何処にいるの」
男の目が光を帯びた。
「買い出しに千葉へ行った」
「大丈夫かなぁ。身体壊してない?」
陽子は首を振った。
男は安心した顔で大きなずた袋から次々と当時貴重だった上質の食料品を出した。
コンビーフ缶、チョコレート、ボンボン、バター、乾燥バナナ、陽子は呆気にとられてぼけっと見ていた。
「これ、ひょっとして進駐軍って所の物なんでしょう?
なんでこんなにいっぱい持ってるの」
男はにっこり笑って答えない。
「そうだ、大事な事聞かなきゃ。
おじさんの名前教えて下さい」
「松村伸二だ」
男は照れ臭そうに小声で呟き、
「これ、お母さんと分けて食べてね。
じゃあ、又な」
松村と名乗った男は飄然と去って行った。