明鏡   

鏡のごとく

『蛍日記』

2015-05-24 22:21:19 | 詩小説
5月24日、日曜日。晴れ。

 9:40、二匹。 

 今日も、二匹、蛍が飛んだ。

 昼の暑い熱を遮る黒い網目の下。

 ここにいるよ。と、点滅する。

 あと少しで、真っ暗な夜に溶けて逝く。

 黄緑の命の時限爆弾。

 一度に、二つの、色のついた魂が呼び合うのだ。

 どちらからも寄り添わず。

 遠くのほうで、呼び合うのだ。

 あと少し。

 あと少しなのだからと。



 
 9:55。一匹。

 蛍は、黒い網を通り抜け、空を漂う。

 オレンジの外灯をめざして。

 うっかり巨大な仲間と思って。

 人気のない車道を漂う。

 そちらにいっては駄目だ。

 何もない。

 ヘッドライトに轢かれるだけだ。

 ひとしきり漂ようと、蛍は犬枇杷にお隠れになった。