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「退会」 マイ・エッセイ 33

2018年08月16日 21時23分01秒 | マイ・エッセイ&碧鈴
   「退会」
                                  

 三月の第三水曜日の午後、今日は何がなんでも「辞める」と言わなければならない。固い決意を持って上河内地域自治センターへ向かった。オイラの行動範囲で唯一、車に乗って出かける場所だ。
 平成二十四年にシルバー大学を卒業したあと、毎月第三水曜日の午後は上河内に行く日と決めていた。生涯学習の講座を企画・運営する委員として活動してきた。四年間、ずっと続けてきた。カレンダーに予定を書く必要もないほど、すっかり生活のリズムになっていた。まだ駆け出しだったころ、先輩たちにはずいぶん世話になった。飲み会での付き合いも回数を重ねて、情が移ってもきていた。
 けれども、このたび、オイラは委員を辞める決心をした。会長に電話で伝えてそれで終わりも考えた。しかし、それは男らしくない。大義名分はある。正々堂々とみんなの前で態度をはっきりさせようと決めた。それでも、辞めるっていうのは言いづらいものだ。みんなの前に顔を出すのに、憂鬱な気分でうちひしがれそうだった。
 会議室に入ると、全員がそろっていた。初めて見る女性が二人いる。どうやら新しく委員になる人のようだ。よしっ、追い風が吹いている。肩の荷が軽くなる。四年が過ぎてようやく後輩ができたというのに辞めなければならないのか。
 テーブルの上の資料に目を通すと、会員名簿にオイラの名前が入っている。あちゃ、逆風も吹いている。もっと前に言っておかなきゃいけなかったか。ふりかえって気が滅入る。式次第に目をやると、委員継続確認の項目を見つける。よしっ、このときだ。心の中で手を叩いた。どのタイミングで「辞める」と言い出したらいいか、ずっと迷っていたが、これでモヤモヤがスッキリした。
 会議が始まって、そのときがやってきた。
「みなさん、来期も引き続きやっていただけることでよろしいでしょうか?」
 進行係の職員がみんなを見回す。すかさず、「ハイッ」オイラはふっきるように勢いよく手を上げた。みんなが何事かと驚きの表情を浮かべる。
「辞めさせていただきたいんですけれど・・」
 言いにくさが言葉尻に出てしまった。みんなの反応をうかがう。
「そんなの聞いてないよな。」
 会長がみんなに声をかける。
 重苦しい沈黙。それを打ち破るようにオイラが口を開く。
「理由を言います。」
 第一関門を突破したからもう大丈夫。あとはみんなを説得するだけだ。そして、去年の六月に「音訳ボランテイア養成講座」を受けて今年の二月に修了したこと、その後の活動として「音声ガイド」の仕事をしたいこと、それが毎週水曜日の九時から三時まであって、ここと重なってしまうことを、「音訳ボランティア」、「音声ガイド」とは何か、どういうことをするのかを説明しながら伝えた。
「そういうことじゃ、しょうがないな。」
 会長がみんなに同意を求めるようにつぶやいた。みんながうなづく。一件落着。
 それからは式次第に従って会議を続けた。オイラはいつもより積極的に発言した。会議が終わった。
「ダメだったら、戻っておいで。」
「残念だけどしょうがないわね、頑張ってね。」
 社交辞令には聞こえなかった。
 四年間、世話になった礼を言って、みんなと別れた。

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