「花咲き山」 斉藤隆介 リメイクby akira
今日は「花咲き山」って、ハナシ やっか。
(花が咲く山 って、書いて、花咲き山だ。)
おれが ちっちゃい頃、ばあちゃんから 聞いた ハナシだ。
このハナシには あや っていう子が 出てくる。
おれは このハナシ、イヤっていうほど 聞かされたが、
(ばあちゃん、このハナシが 好きだったからな)
このハナシを聞くたび、この あや って子は ばあちゃんの ことじゃねぇか と思って 聞いてた。
一度 ばあちゃんに 聞いてみたことがある。
「この あや って子は ばあちゃんの ことじゃねぇのけ?」
ばあちゃん、笑ったきり 答えて くんなかった。
むかしの ことだそうだ。
ある 山のふもとに あや っていう子が いたと。
ある日(のこと)、あやは、おかぁに頼まれて、ワラビを取りに 山に 行ったと。
ところが、夢中になって ワラビをさがしてるうち、いつのまにか 迷子に なっちまったと。
あっちこっち、うろうろしていると、いい 花の香りが してくる 山を 見つけたと。
誘われるように 山に入って行くと、色とりどりの きれいな花が 一面に 咲いているところに 出たと。
あやが 花に夢中になっていると、後ろから、声が したと。
ふり返ってみると、まっ白の髪を 腰まで伸ばした ばさまが 杖をついて 立っていたと。
「やまんば!?」・・・あやが 立ちすくんでいると、
「こわがらなくてもいい。おめぇに 話したいことがある。・・・まぁ、そこにすわれ。」
あやが 言われるままに すわると、ばさまも 一緒に すわって、やがて 話し 始めたと。
「わしは この山に 住む 婆(ばば)だ。(以下 やまんばの独白)
わしのことを やまんば と言って こわがるヤツもいる。
だが、わしは 人が こわがるようなことを したことは ねえ。
臆病なヤツが 山ん中で わしに出会うと、こわがって 逃げようとする。
まるで 化けモンにでも 出会った ようにな。
あわてて 逃げっから、転んで 怪我をしたり、中には 崖から 落ちるヤツもいる。
人は みんな それを、わしの せいに する。
困ったもんだ。
あや、おめぇは やさしい子だから、わしのこと ちっとも こわく なかんべ。
なんで おらの名前 知ってんだべ って、顔 してんな。
わしは なんでも 知っている。
おめぇの 名前も、・・・おめぇが、どうして、この山に 来たのかもな。
おかぁに 頼まれて、ワラビを 取りに 来たんだべ。
ところが、おめぇは 道に 迷っちまって、この山に来た。
どうだ、この山は びっくりするくれぇ 一杯 花が咲いているべ。
どうして、こんなに 一杯 花が咲いているか、知りたくねぇか。
おめぇには 教えてやろう。
人が ひとつ やさしいことをすると、ひとつ 花が咲く。
この山の花は みんな 人のやさしさが 咲かせたものだ。
あや、おめぇの 足もとに 咲いている その 赤い花。
その 赤い花は 昨日、おめぇが 咲かせた花だ。
あや、昨日のこと 覚えているか?
昨日、おめぇは おかぁと 妹のそよと 三人で、祭りで着る 着物を 買いに行ったべ。
そして そよが、「おら、この 赤いべべがほしい。」って、駄々こねて、おかぁを 困らせた時、
おめぇは 言ったべ、「おかぁ、おら、いらねぇから、そよに 買ってやれ。」・・・ってな。
そん時、その 赤い花が 咲いた。
おめぇは 家(うち)が貧乏で、二人に 着物を買う 金が ねぇことぐらい 知っている。
だから、おめぇは 自分だって 新しい着物が ほしいのを ガマンして、妹のそよに 譲ってあげた。
おかぁは どんなに ありがたかったか。
そよは どんなに 嬉しかったか。
おめぇは せつなかったべ。
祭りの 時には、友達 みんなが 新しい 着物を 着てくる。
そん中で、おめぇだけ 一人、古い 着物を 着てんのは つらいもんな。
だけど、おめぇは 妹のためを思って ガマンした。
おめぇの その やさしい気持ちが、その 赤い花を 咲かせた。
ここの花は みんな そうして 咲いた。
ほら、そこに、今 咲こうとしている 白い花が あるべ。
その 白い花は、今、双子の 赤ん坊の あんちゃんが 咲かせようとしている。
双子の 弟が かぁちゃんの おっぱいを ウクンウクン って 飲んでいる。
もう片っ方の おっぱいも 手でいじくっていて 放さねぇ。
あんちゃんは ちょっと 先に 生まれただけなのに、
自分は あんちゃん だからって、おっぱいが飲みたいのを ガマンしている。
目に 一杯 涙をためてな・・・。
ほら、今、こらえきれなくなって、涙が ポトリと 落ちた。
その落ちた涙が その白い花の 葉っぱの上で キラキラ 光っている 露(つゆ)だ。
自分が したいこと、やりたいことを ガマンする。
目に 一杯 涙をためて ガマンする。
その やさしさと けなげさが ここの花を 咲かせる。
ウソじゃねぇ、ほんとのことだ・・・。あや、おめぇには わかるな。」(以上 やまんばの独白)
「うん。」あやは こくりと うなづいたと。(ここからは昔話の語り口調で)
「おめぇの その やさしい気持ち、いつまでも そのままにな。」
ばさまは あやの 頭を やさしく なで、帰り道を 教えてくれたと。
うちに帰ると、おとぅと おかぁに 山のことを 話したと。
「そんな 一杯に 花が咲いている 山が あるなんて、見たことも 聞いたこともねぇ。
(おおかた)夢でも 見たか、キツネにでも 化かされたんじゃ ねぇのか。」
本気にしては もらえなかったと。
それから、あやは、もう一度、あの花が 見たくなって、あの山を 捜しに 行ったと。
だけど、ばさまに 会うことも、あの花を 見ることも できなかったと。
けれども、あやは、そのあと、
「あっ、今、あの山で おらの花が 咲いた!」って、思うことが あったと。
おしまい
今日は「花咲き山」って、ハナシ やっか。
(花が咲く山 って、書いて、花咲き山だ。)
おれが ちっちゃい頃、ばあちゃんから 聞いた ハナシだ。
このハナシには あや っていう子が 出てくる。
おれは このハナシ、イヤっていうほど 聞かされたが、
(ばあちゃん、このハナシが 好きだったからな)
このハナシを聞くたび、この あや って子は ばあちゃんの ことじゃねぇか と思って 聞いてた。
一度 ばあちゃんに 聞いてみたことがある。
「この あや って子は ばあちゃんの ことじゃねぇのけ?」
ばあちゃん、笑ったきり 答えて くんなかった。
むかしの ことだそうだ。
ある 山のふもとに あや っていう子が いたと。
ある日(のこと)、あやは、おかぁに頼まれて、ワラビを取りに 山に 行ったと。
ところが、夢中になって ワラビをさがしてるうち、いつのまにか 迷子に なっちまったと。
あっちこっち、うろうろしていると、いい 花の香りが してくる 山を 見つけたと。
誘われるように 山に入って行くと、色とりどりの きれいな花が 一面に 咲いているところに 出たと。
あやが 花に夢中になっていると、後ろから、声が したと。
ふり返ってみると、まっ白の髪を 腰まで伸ばした ばさまが 杖をついて 立っていたと。
「やまんば!?」・・・あやが 立ちすくんでいると、
「こわがらなくてもいい。おめぇに 話したいことがある。・・・まぁ、そこにすわれ。」
あやが 言われるままに すわると、ばさまも 一緒に すわって、やがて 話し 始めたと。
「わしは この山に 住む 婆(ばば)だ。(以下 やまんばの独白)
わしのことを やまんば と言って こわがるヤツもいる。
だが、わしは 人が こわがるようなことを したことは ねえ。
臆病なヤツが 山ん中で わしに出会うと、こわがって 逃げようとする。
まるで 化けモンにでも 出会った ようにな。
あわてて 逃げっから、転んで 怪我をしたり、中には 崖から 落ちるヤツもいる。
人は みんな それを、わしの せいに する。
困ったもんだ。
あや、おめぇは やさしい子だから、わしのこと ちっとも こわく なかんべ。
なんで おらの名前 知ってんだべ って、顔 してんな。
わしは なんでも 知っている。
おめぇの 名前も、・・・おめぇが、どうして、この山に 来たのかもな。
おかぁに 頼まれて、ワラビを 取りに 来たんだべ。
ところが、おめぇは 道に 迷っちまって、この山に来た。
どうだ、この山は びっくりするくれぇ 一杯 花が咲いているべ。
どうして、こんなに 一杯 花が咲いているか、知りたくねぇか。
おめぇには 教えてやろう。
人が ひとつ やさしいことをすると、ひとつ 花が咲く。
この山の花は みんな 人のやさしさが 咲かせたものだ。
あや、おめぇの 足もとに 咲いている その 赤い花。
その 赤い花は 昨日、おめぇが 咲かせた花だ。
あや、昨日のこと 覚えているか?
昨日、おめぇは おかぁと 妹のそよと 三人で、祭りで着る 着物を 買いに行ったべ。
そして そよが、「おら、この 赤いべべがほしい。」って、駄々こねて、おかぁを 困らせた時、
おめぇは 言ったべ、「おかぁ、おら、いらねぇから、そよに 買ってやれ。」・・・ってな。
そん時、その 赤い花が 咲いた。
おめぇは 家(うち)が貧乏で、二人に 着物を買う 金が ねぇことぐらい 知っている。
だから、おめぇは 自分だって 新しい着物が ほしいのを ガマンして、妹のそよに 譲ってあげた。
おかぁは どんなに ありがたかったか。
そよは どんなに 嬉しかったか。
おめぇは せつなかったべ。
祭りの 時には、友達 みんなが 新しい 着物を 着てくる。
そん中で、おめぇだけ 一人、古い 着物を 着てんのは つらいもんな。
だけど、おめぇは 妹のためを思って ガマンした。
おめぇの その やさしい気持ちが、その 赤い花を 咲かせた。
ここの花は みんな そうして 咲いた。
ほら、そこに、今 咲こうとしている 白い花が あるべ。
その 白い花は、今、双子の 赤ん坊の あんちゃんが 咲かせようとしている。
双子の 弟が かぁちゃんの おっぱいを ウクンウクン って 飲んでいる。
もう片っ方の おっぱいも 手でいじくっていて 放さねぇ。
あんちゃんは ちょっと 先に 生まれただけなのに、
自分は あんちゃん だからって、おっぱいが飲みたいのを ガマンしている。
目に 一杯 涙をためてな・・・。
ほら、今、こらえきれなくなって、涙が ポトリと 落ちた。
その落ちた涙が その白い花の 葉っぱの上で キラキラ 光っている 露(つゆ)だ。
自分が したいこと、やりたいことを ガマンする。
目に 一杯 涙をためて ガマンする。
その やさしさと けなげさが ここの花を 咲かせる。
ウソじゃねぇ、ほんとのことだ・・・。あや、おめぇには わかるな。」(以上 やまんばの独白)
「うん。」あやは こくりと うなづいたと。(ここからは昔話の語り口調で)
「おめぇの その やさしい気持ち、いつまでも そのままにな。」
ばさまは あやの 頭を やさしく なで、帰り道を 教えてくれたと。
うちに帰ると、おとぅと おかぁに 山のことを 話したと。
「そんな 一杯に 花が咲いている 山が あるなんて、見たことも 聞いたこともねぇ。
(おおかた)夢でも 見たか、キツネにでも 化かされたんじゃ ねぇのか。」
本気にしては もらえなかったと。
それから、あやは、もう一度、あの花が 見たくなって、あの山を 捜しに 行ったと。
だけど、ばさまに 会うことも、あの花を 見ることも できなかったと。
けれども、あやは、そのあと、
「あっ、今、あの山で おらの花が 咲いた!」って、思うことが あったと。
おしまい