27.06.22 箱 入 り 父 さ ん NO.833
大切に育てられて世間知らずなお嬢さんのことを一般に「箱入り娘」と言いますね。 あっても、箱入
り奥さんまででしょう。 ところで、私の父さんは「箱入り父さん」でした。 戦争が終わって外地から続々
と引揚者が帰国する中、わが父はなかなか帰って来ませんでした。
それでも、秋口になってやっと帰ってきましたが、その時には白い布に包まれた小さな桐の箱に入って
「箱入り父さん」になっていました。 箱入り父さんは世間知らずです。 怠け者なのかもしれません。
妻子がその日の生活費にも事欠く状態なのに、手も足も動かしません。
ただ傍観するのみです。 もしかすれば、妻子が路頭に迷い貧困にあえぐ姿を見て、痛恨の思いを感じ
ていたのかもしれませんし、箱に入る前にはこの無益な戦争を起こした「お国」に対して怨嗟の念を訴え
たかったのかもしれきません。 でも、その願いはなに一つも叶いませんでした。
私自身はその父さんの倍の年数を生きてきて、いつ箱の中人入ってもよいような年齢になりましたが、
いま子育て中とか後期高齢などと呼ばれる年代に達していないお父さん(もちろん母さんも)には、二度
とこのような不本意な「箱入り」だけはさせたくありません。
享年38歳、4人の子供を残しての「箱入り」はさぞ無念だったことだろうと偲ばれます。