また、岩手の名物南部鉄器の花形である南部鉄瓶なども茶釜同様に茶道で扱うことがあるが、それは裏千家が考案した「立礼(りゅうれい)」という国際的スタイルや略式の盆手前に使われている。
さて、盛岡学園高等部の茶道部室。茶道部顧問の江越千尋は黙々と茶を点てていた。
「本日も、いただきます」
そこへ弓道部や空手部の女子がやってきた。アローこと斉藤葵とホワイトこと白澤美雪もそこにいた。
「千尋先生のお茶って愛情がこもっているわよね」
「そうそう、文化祭のときには行列作るってくらいだもん」
そして茶事のはじまり。江越は文化祭に備えて気合を入れていた。
「そういや去年の学園祭はひどかったもんね」
「あぁ、福島先輩が新田さんとやりあった話だっけ」
「だから今年は調和と癒しをテーマにするみたいよ」
「よかったぁ」
江越のもてなし方を学んだアローとホワイトは笑顔だった。
しかし江越がいない夜の茶室でとんでもないことが起きた。
「おい、今年の文化祭はステージイベントやんないってどういうことだ」
「それはわかってる。ただ学校としても去年のことがあるから…」
「俺たちには承服できないね」
「…」
文化祭のステージ自粛に反発した演劇部や軽音楽部の部員が学園祭担当の三浦利紀を問い詰めていた。
「それならこっちにも考えがあるんだ」
そして合唱部の上田加奈子が分厚い書類を三浦に見せ付けた。
「合唱部のカナッペは簿記と情報技術の主席なんだ、これくらい朝飯前だ」
三浦は紅潮し、そそくさと部屋をあとにした。
「待って。いつものように」
加奈子ともう一人の女子が香を焚き、室内の空気を入れ替えて部屋を出たのは12時を回ったときだった。
そして翌日、昨夜焚いた香の香りが漂う廊下で江越は立ち止まった。
「ああ、誰かがわたしの聖なる茶室を…」
それをマッキーこと牧村環が見ていた。
「誰がこんなお香を焚いたのかしら」
そこへ理事長のゴッド・大谷正治からの呼び出し。江越千尋の愛の込められた茶室を汚すものが学内にいるというのだ。
「動機は?」
「今年は例年のステージイベントを廃止して学園大運動会と文化祭の二本立てにする。それをねたんだクラブが何かしらやったに違いない」
「ということは?」
「おそらくはステージ自粛に反対する生徒たちか…」
「あるいは文化部内で茶道部の江越千尋に反目してた人」
「ところでステージ自粛となると、横田君も気の毒だろうな。横田君については何とかフォローしたいのだが、それは後の話にしよう」
そしてハングタン行動開始。アローとホワイトから江越の話を聞いたマッキーは、さっそく怪しい生徒や先生を調べた。その結果5人の容疑者が浮かんだ。
「まずは演劇部の佐々木浩之君。うちのクラスだからわかるけど、結構いじめられっ子だったのがこっちに入ってから人が変わったって」
ホワイトも浩之の写真に見入っていた。
「次にブラスバンドの指揮してる生徒会役員の川上元樹君。C組のクラス委員もしているわ。確か生徒会の決定に反対したのは彼と上田さんと…」
そこへ残りのメンバー(ウイングこと高橋弥生、エースこと荒川まどか)がやってきた。
「生徒会で反対したのは川上君と上田さんと山本君よ」
「そう、なんでも学園祭担当の三浦先生を訴えるなんて朝から大変な騒ぎで」
「逃げられなかったわよ」
「今度の生徒会役員改選にも影響が出るらしいからね」
念のため生徒会長の太田カナにも話を聞いた。すると三浦先生がオープンスクールにするのなら体育祭と日本文化祭の二本立てにしようと提案したと言うのだ。
「また今年も学園祭が荒れるのかしら?」
再び理事長室。ゴッドがショパンに話をしていた。
「もしかしたら、今年ステージ廃止を主張した三浦先生は学園の金を横領しているかもしれない。生徒たちがそんなことを風潮していますよ」
「許せないわよ、先生に罪を着せようなんて」
「実は三浦の提案は予算の合理化や生徒ひとりひとりの強化などを目的としたものだ。それ自体はいいのだが、それで浮いた予算が消えたと言うのだ」
「会計監査は」
「それが、先生のサラリーなどは監査の対象外なんだよ」
それを聞いてショパンはあきれた。そしてその書類を提出した加奈子に話を聞くことにした。
「横田君、これがおわったらもう一度話し合おう。講堂でピアノリサイタルをやる」
それを聞いたショパンは喜んだ。
昼休み、上田加奈子は同級生の山本邦人と弁当を食べていた。そこへショパンがやってきた。
「食べたい、食べたい。だから先生に三浦先生のこと教えて」
邦人がショパンの誘惑に負けてついしゃべってしまった。
「昨夜茶室で三浦先生の事件の証拠を見せたんだ。すると…」
その夜加奈子と邦人が書類をコンピューター室でまとめ、11時に茶道室に来るよう仕向けたらしい。しかし三浦は白を切ったまま茶室を去ったため、真相は闇の中だ。
「ということは、三浦先生は本当に?」
「間違いないわよ」
「三浦先生が文化祭の簡素化云々、生徒の体力向上言うのはわかるけどさ」
放課後、体育倉庫でバスケ部の撤収作業。
「いつもならしばらくは文化祭の関係で使えないですけど、今年は大運動会なので前々日までは使えます」
ウイングと後輩の菅原愛里がボールを磨いていた。
「あたしたちにとっては体育祭を大運動会とかするのは歓迎なんだけどね」
「でも当事者は笑えないでしょう」
ホワイトとカナも手伝いにやってきた。
「当然でしょ、バスケ部はこんな時間まで体育館使ってくれてるんだもの」
「さ、これでひと通り」
そしてホワイトは待っていたアローと一緒に1階に向かった。
「あたしも行く」
結局ウイングも行くことになった。行き先は今夜も茶道室、しかし今夜はどこの部員も来ていなかった。
「おかしいわね」
江越は黙々と茶を点てていた。
「先生、今日も来ました」
そして茶と料理をいただくハングタンたち。ちなみに弥生は寮生なので10時が門限、ということでまた朝にという約束をして茶を飲みきったところで帰った。
「明日の朝、か…」
その翌朝、朝7時に茶道室の戸を開けた江越は驚いた。なんと三浦が鉄瓶に頭をぶつけたのだ。
「三浦先生!」
幸い三浦は軽く打撲した程度だったが、念のため今日は病院へということになった。
「誰のせいかしら。まさかあの3人?」
「さぁ、昨夜は誰もいなかったようだけど」
「本当に?」
「あ、でも、千尋先生だけはいたわよ」
「そうよ」
すると警察は江越を傷害容疑で連行した。しかしハングタンたちは江越は犯人じゃないと思った。というのも江越が炭点前で準備するのは茶事の30分前、ハングタンたちが来ていたときにはもう1時間は経っていた。
「だとしたら変よ。お点前の後は水屋でおかたずけ、そして鍵を閉めたわけよね」
「鍵ってものがなくて、扉の仕掛があるみたいなのよ」
「それじゃ、それを知っている人が…」
そしてアローはエースと話し合っているうちに意外な事実を知る。
「確か上田加奈子は合唱のテノール部分担当だけど、茶道部も掛け持ちしてるらしいの。お母さんが茶の湯の先生で」
「そっか、上田吟緑って…お茶の宗匠なのね」
これで上田加奈子はクロとなった。しかし傷害事件の物証はない。そこでお見舞いに加奈子、川上元樹、山本邦人を行かせた。これもハングタンの作戦である。
「三浦先生の見舞いに行くって」
「あれは事故なんだから」
「でも加奈子、あそこでなんで止めたんだよ」
「だからかすり傷程度で済んだのよ。そうじゃなかったら…」
この会話はすでにホワイトとウイングによって盗聴されていた。
「…やっぱり」
三人は三浦の見舞いを済ませた。そこへショパンが看護師に扮したメンバーを引き連れてやってきた。
「すいません、上田加奈子様は…」
「はい、わたしです。何か」
「実は三浦先生の本当の病名を言ってほしいんです」
しかし加奈子は口をつぐみ、病院を抜け出そうとした。するとウイングが偶然居合わせた愛里とのペアで加奈子を捕縛した。
「やったぁ!」
「あとはハンギングだけ、だけどどうする?」
「茶道室ならではのハンギングよ」
いよいよハンギング開始。三人は茶道室の風炉の周りで縛られていた。
「さぁて、三浦先生をどうしていじめたのかしら?正直に答えないと、一酸化炭素中毒になりますよ」
「ちゃんとしゃべってね」
しかし三人は一言もしゃべろうとしない。だから茶室は一酸化炭素が充満してしまった。とうとう我慢できなくなった三人はあの夜の出来事をしゃべった。
「助けて!話すから」
「加奈子、何を言うんだ!」
「あのとき三浦先生は自白したわ」
「…そうだ、先公はステージ廃止するとか言ってあだこだ言ってたけど、証拠が出た以上は観念したみたいで」
「みんな三浦先生が悪いのよ、慰謝料とかギャンブルとか…」
「学校の金を使い込んでまで大義名分を掲げる悪徳教師は許せない」
「でも、でも、人を殺めちゃいけないって…」
「加奈子」
「山本君、あたし気がついたの。自分たちも悪いことをしたって」
そのとき、茶道室のにじり口を江越が開けた。
「先生が助けに来ました。みんなもう安心ですよ」
それを聞いた加奈子は江越に泣いて謝った。浩之と邦人も泣いて土下座した。
「今年の文化祭は日本文化の部とステージの部で二部3デイズよ」
「へぇ、よかったじゃん」
ハングタンたちは喜び勇んで放課後の厨川界隈を散歩していた。
「よかったはいいけど、これでバスケ部明日からしばらく休業よ」
「弓道部は休めないし…」
エースが道端の自販機でお茶を買った。
「ところでステージって、横田先生のピアノがメインイベントらしいよ」
「それに加奈子ちゃんの独唱もあるって」
一方マッキーとショパンは廊下で夕日を眺めていた。
「三浦先生が辞めたみたいですね。いくら慰謝料だ何だって言っても…そして再婚相手に千尋先生を選ぶつもりだったって言ってましたし」
「そうだったんだ。でも今回のことで学んだわ、いくらいいこと言っても中身が醜いのはダメだって」
「そうよね。だからこそ教え子たちには明るく元気で、きれいな心を持ち続けてほしいって思うの」
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神宮寺織彦
フリオ・ニール
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