秋、中津川でスティングこと原俊彦は川釣りを楽しんでいた。しかしさっぱり釣れない。
「川の景気が悪いのかね」
そうぼやくスティングの横で別の釣り人が竿を振り回していた。堤防の上にはトラックが待機していた。
「なしてあんなとこに」
そう言ってスティングはトラックに詰め寄ったが、トラックは逃げてしまった。すると釣り人が待てと言った。しかしその男も、トラックの運転手も対岸の狙撃手に撃たれてしまった。狙撃手はそのまま外国のスポーツカーで逃亡した。
「ちきしょう、こいつめ」
スティングが荷台を開けると、そこには人形が。
「なぁんだ、おもちゃじゃねぇか。ん?盛岡学園附属幼稚園、盛岡学園初等部…」
これらは盛岡学園に注文するおもちゃだったのだ。
テレビニュースで狙撃されたのは東北の地方暴力団幹部高橋と判明。そのニュースをショパンこと横田夏子とマッキーこと牧村環も知った。
「これでしょ、原さんが見たって言うのは」
「そうみたい」
「盛岡学園におもちゃの注文?なんて知らないわよ」
「ねぇ」
そして盛岡学園の理事長室。ゴッド・大谷正治は盛岡学園におもちゃの購入注文と言うのはなかったと言う。
「初等部と幼稚園のおもちゃを注文した、なんてことはないぞ」
「じゃあ、あの大量の人形は…」
「コピー商品じゃないのかね」
「コピー商品?」
「つまり正規のルートを通さない人形とかだ。ネットオークションの浸透でこうした偽物が増えている」
「確かにキャラクターグッズを自作改造したために逮捕されたフィギュア造形師もいましたしね」
「つまり、そのコピー人形を盛岡学園に売りつけようとした詐欺師がいるというわけだ」
「なるほど」
理事長室を出たショパンは男とすれ違った。男は理事長室に入った。
校庭ではエースこと荒川まどか、ウイングこと高橋弥生、そしてホワイトこと白澤美雪の3人がジョギング中。そこに初等部の子供が操縦するラジコンが。
「ちょっと、お姉さんにいたずらしないでよ」
「ほんと、ガキのお遊戯って…」
すると母親がやってきた。
「みつる、みつる」
「母ちゃんだ」
みつるは母親にびんたされた。そこへホワイトがやってくる。
「みつる君は悪くありません」
「いいえ、みつるはうちの売り物のおもちゃを持ち出したんですよ」
「ええっ?」
みつるの家はおもちゃ屋だった。しかしこのご時勢、おもちゃ屋なんてはやらないと母の和子はぼやいていた。
「それでもおもちゃ屋に賭けるのはなぜですか?」
スティングの質問に和子はこう答えた。
「そりゃ、子供たちの健やかな成長と幸せな心のためですわ」
「…僕はおもちゃといえばすごろくと地図でした。だから地理はいつも点数良かったんですよ」
「あら、そうだったんですか」
「最近はアニメショップとか言って、フィギュア売ったりするのがはやっていますけどね」
「おもちゃは本来子供のためのもの、それをもてあそぶ大人たちは…」
和子は涙を流した。
生徒たちは幼稚園の保母さんに話を聞いていた。
「こんな人形を注文した覚えありませんか?」
「黄色いぬいぐるみなんですけど」
しかし保母さんたちは誰も知らないと言う。事務長の石川にマッキーが同じことをたずねたが、これも空振り。
「やっぱり盛岡学園にコピー商品を売りつけようとしたのね」
さて、盛岡市内には村上というバッタ屋があった。ここのバッタ屋のオーナー村上誠一郎は盛岡学園に商品が届かなかったということで憤慨していた。しかもコピー商品のことに気がついていた。
「何か商売になるおもちゃないのか」
「すごろくゲームとかは」
「それはいろいろセットが必要になる、ダメだ」
「じゃ人形だ」
「ただしフィギュアとかはだめだ、そんなのは学園にふさわしくない」
「じゃ、どうしたら」
「おもちゃ屋に聞けばいいのさ」
村上の部下の井上勝也があのおもちゃ屋に入った。
「あ、どうも」
和子はお客さんと言うことで喜んだ。だが、井上はこの店の人形やぬいぐるみを全部欲しいと言ってきた。
「とにかく全部だ。釣りはいらんぞ」
井上は20万円を和子に見せた。
「すごい」
和子はそう言って卒倒した。
スティングと生徒たちが井上が人形やぬいぐるみを買い占めるのを目撃していた。
「こんちくしょう」
「フランス人形持ってっちゃうの」
「ぬいぐるみも根こそぎよ」
そしてスティングは生徒たちに何か買ってこいと命令した。
「ごめんください」
「あら、またお客さん?」
「そうです」
「女の子なの?ごめんなさいね、リナちゃんもジェミーちゃんも売り切れなのよ」
「あぁ~」
そこでホワイトが2000円を和子に手渡した。
「あの、これは」
「さっきの人、何なんですか?」
「どういうことです」
「実はあの人、この前中津川近くで発見されたコピーのお人形の件に関わりがあるんです」
「えっ?」
和子は2000円を持ったままそそくさと消えていった。
井上は狙撃手の中西に電話、仲間を動員してあのおもちゃ屋の在庫を買い叩けと命令した。
「あのおもちゃ屋で変な男に会ってしまった。若い女性3,4人を連れた…」
中西は気が動転した。中津川の一件がバレやしないかと思ったのだ。
「もしかしてそいつは…」
「心当たりでもあるのか?」
中西たちはスティングと生徒たちを包囲した。だが、ホワイトとアローが敵を撃退した。スティングは仲間の一人に話しかける。
「お前たちは誰の指図で動いているんだ」
「…村上誠一郎だ」
「村上?確か在庫処分質流れ取り扱いの」
「そうだよ」
スティングは中西の仲間の自白テープをショパンとマッキーに聞かせた。
「なるほどね、おもちゃ屋が廃れたからこそこういう策を取ったわけ」
「その通り。バッタ屋による事件なら警察にもバレたりはしない」
「そしてそこからコピー商品をつくる、汚いわ」
「そうでしょ?だから今のうちになんとかしないと」
ということで村上商会にハングタンがやってきた。するとマッキーが電話の秘話機能がどうとかで盗聴無線機を取り付け、火災報知機にもカメラやマイクをセットする念の入れようだ。
「よし、これで全部ね」
村上商会の手の内はハングタンに筒抜けとなった。そこへ井上が戻ってきた。
「さて、人形やぬいぐるみのコピーと言うことだが、今度はどこへ売り込もうかな?」
「売り込み先なら学校や幼稚園しらみつぶしに探せばいいじゃないか」
「さっそく売り込みに」
「いや、この人形たちを土台に我々は増産する」
それを聞いたマッキーは逆上する。
「バッキャロー!!」
そしてさっきのみつるのおもちゃ屋「おもちゃのさとう」に井上がやってきた。
「実は折り入って話がある」
なんと井上はみつるを誘拐したというのだ。返して欲しかったらすべてのおもちゃを村上商会に引き取れと言う話だった。引き取ったおもちゃは特殊教育センターに安く売り飛ばすと言う。
「どうです、お上の買い物なら文句は言えますまい」
「…みつるを本当に返してもらえるんですか」
「ま、そのつもりだ」
和子はおろおろしながらおもちゃを出した。
「これで全部です、いつもあまり客が来ないもんで」
「ほぉ、レアなおもちゃもあるじゃないですか」
井上は仲間にブリキのおもちゃを渡した。
「竹内、これ運べ」
別の部下(竹内)がボードゲームの山を運んだ。
「みつるはこれで帰ってくるんですね」
「ああ、明日には」
しかしみつるは村上商会の倉庫に閉じ込められていた。アローとエースが近くを通りかかったとき、その異常に気がついてみつるを救出したが、そこで狙撃手の中西に狙われた。
「いやっ」
「葵、大丈夫?」
中西の弾はアローの足をかすった。
「鉄砲玉め…」
中西は屋上から消えた。
そして夕方、みつるは和子の元に帰って来た。和子はみつるを抱いて、おもちゃ屋を閉めることにしたと言う。
「え~っ、どうして」
「村上さんに在庫引き取ってもらったわ。これからは母さんとのんびり暮らしましょ」
それを聞いたアローとエースは驚いた。
「そんな、おもちゃ屋閉めたら周りの子供たちも…」
「そうよ。それにあたしだってたまにはこう言う店で買ってみたいもん」
それを聞いた和子は驚いた。
「もう買ってくれる人なんていないと思ってたのに、こりゃ驚いたわね」
「僕もお母さんのおもちゃ売ってるところ見てみたい、ずっと、ずっと…」
この光景を対岸の歩道からスティングとショパンが見ていた。
マッキーとショパンは作戦会議を開き、村上商会のおもちゃを買いに来たと言って一気に叩き潰すことにした。さっそくショパンが村上商会へ。
「すいません、おもちゃのピアノの調律に伺いました」
なるほど、ショパンらしく調律師ときたわけだ。そこへマッキーとスティングが県教育委員会の人間だと言ってやってきた。竹内がドアを開ける。
「おもちゃを引き取りにきたんですね」
「いいえ」
「あたしたちはみなさんを取りに来たんです」
そしてハングタンと井上たちが格闘した。井上はスティングにナイフで襲いかかったが、スティングが早めに身を翻したので井上はバランスを崩して倒れた。
「よし」
村上は生徒たちが連れ出した。これであとはハンギングだけ。
村上、井上、中西は棒にくくりつけられていた。
「ここ、どこだよ」
「何も見えないじゃないか」
「おもちゃの墓よ。あんたたちに捨てられたおもちゃの…ねっ」
「墓だって?とんでもない」
「だったら見せてあげる、ここが血も涙もない人間に捨てられた人形の墓場だってことをね!」
そして灯りが点ると同時に人形たちが一斉に動き出した。
「本当に動いているぞ」
「さぁ、しゃべらないとどんどんうるさくなるわよ」
「うるさい」
「おもちゃ屋からおもちゃを買い叩いておきながら、偽者のおもちゃを学校や幼稚園に売り込むなんて!」
「もう最低よ、夢も希望もない大人たち」
ハングタンにぼろくそに言われた村上たち、しかし何も出来なかった。人形たちはどんどん前進し、ついにナイフやライフルを持った人形が迫ってきた。
「中津川の射殺事件は偶然だったんだ、邪魔が入ったと勘違いして…」
「そうか、やっぱりお前だったのか」
「おもちゃ屋から買い叩いたおもちゃは海外に輸出して恵まれない子供たちへの寄付としたんだ」
「見せ掛けの善意には感動しないな」
そして人形が村上たちを完全に包囲したところで止まった。
「…何だったんだ」
「さぁ」
ショパンはおもちゃのピアノで村上たちの悪行を歌った。ショパンの歌声に村上たちはとうとうたまりかねて外へ逃げ出したが、そこはおもちゃのさとうの近くだった。
「しまった!」
「今のはすべて嘘です」
「いや、違う!中西に取引の見張り番やられたのも、おもちゃのさとうの一人息子を誘拐して脅迫させたのも、みんな村上さん、あんたの指示だ」
そのことを知った和子は井上に向かって罵声を浴びせた。
「井上さん、騙したんですね!」
そしてパトカーがやってきて、ハングタンは街の中へと消えていった。
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