夜、横田夏子と牧村環は清水町のマンションの一室で話し合っていた。
夏子「サッカー部の荒川まどかがいいと思うの。弥生とか使えないときあるじゃない」
環「それもそうね。そう言うときのピンチヒッターは必要だし、それに…」
夏子「それに?」
環「うちの部員でもひとり有望なバックアップメンバーがいるのよ」
夏子「それは?」
環「弥生についてってる田村」
夏子「2年生よね。レギュラー張れるの?」
環「こっちも弥生によくついていけるなぁって感心してるから…レギュラー格かもね」
環は愛里が使えないと判断してしまったようだ。そこに俊彦が。
俊彦「失礼します」
夏子「あら、原君じゃないの」
俊彦は斉藤勲と一緒だった。
夏子「斉藤さん…どうしてここに」
勲「いやぁ、葵からここだって聞いたもんで」
俊彦「先生、新選組も揃いましたからひとつここらで」
夏子「で、でも」
強引に押しかけてきた新選組メンバーに夏子は四苦八苦。環はバッキャローで一喝するが、俊彦はいい話を持ちかけた。
俊彦「実はいい話がある。生徒会長をハングタンのバックアップメンバーに入れて欲しい」
夏子「ええっ?」
俊彦「生徒会長がハングタンに関われば、生徒たちも悪いことが出来なくなるってことさ」
環はそんな俊彦の屁理屈に疑問を抱いた。
環「でも、そんなことしてたら生徒会長でなくてもいいんじゃないの」
夏子「マッキー、そんなこと言っちゃいけないの。これは大事な話なんだから」
環「じゃ、うちのバスケ部員もバックアップメンバーに」
俊彦「それはいい」
勲「まぁトシやシゲやオラや先生のようなオトナはともかく、高校生じゃな」
俊彦「んだな」
こうして2008年度のハングタンの骨子が出来た。あとはゴッド、つまり理事長の大谷正治に見せればいい。
翌朝、理事長室に環がいた。
環「徹夜して完成させました。どうか見てやってください」
大谷は環が夏子や俊彦と一緒に作ったメンバーリストを見た。
大谷「バックアップメンバー、か…この学園の関係者全員がハングタンのバックアップメンバーだと考えてくれ」
環「わかりました」
大谷「とくに信頼できる人間、バスケ部の君のパートナーで寮長の間宮由香、女子サッカー部監督の内田亨、そしてわたしが信頼する若者原俊彦」
環「原さんってそんなにすごい人なんですか?」
大谷は東北日報の社会面を環に見せた。そこには俊彦が書いたコラムが掲載されていた。
大谷「彼は文筆活動で岩手の現状を憂い、主張し続けている。そしてそんな彼を見込んでつくったのがザ・新選組だ。そこに紅一点のメンバーとして入れたのが横田君」
そこで夏子が入ってきた。
夏子「だから今回、原君はじめ新選組メンバーにも協力をお願いしたのよ」
夏子は胸ポケットから俊彦、勲ともうひとりの若者の写真を見せた。
夏子「原君と葵ちゃんの叔父さんはわかるわね。もうひとりは国分繁治さんと言って、元自衛官よ」
大谷「ほほぉ、さすがに君も勉強したな。よし、このメンバーでとりあえず行動開始だ」
大谷はさっそくある事件について調べて欲しいと言った。その事件は5日前の高松の池ほとりでの事件だった。
大谷「実は女子校生がそこで首を絞められて殺された」
ということで、ハングタンたちは高松の池へ。近くには殺された生徒が通っていた高校がある。
環「下校中を狙って人殺しなんて…許せないわ」
夏子「でもそれだけじゃあたしたちの出番がないわ」
環「そうよ」
そこへひとりの男がやってきた。
男「だから俺たちが助けてやろうじゃないかってわけだよ」
夏子「あなたは誰」
男「僕は国分繁治、コードネームはバトラー」
夏子「横田夏子です。コードネームはショパン」
環「あたし牧村環、よろしく」
繁治「さて本題だ。牧村先生、この事件にはあまり関わらないほうがいい」
いきなり繁治は環に事件に関わるなと忠告した。
環「どうして」
繁治「実は、殺されたまゆみって子が…」
繁治は泣きながら続きを言った。
繁治「先生の教え子とそっくりなんだよ」
環「ええっ?」
繁治「実は5日前に大通りで原さんと一緒に歩いていたときのことだ」
5日前の夜、つまり事件の夜に俊彦と繁治はバーを出て駅の方面へ向かっていた。
俊彦「帰ったらもう原稿が手につかないよ」
繁治「おい、もう帰るのか」
俊彦「だいたいネットカフェとか泊まって犯罪に巻き込まれたら…」
繁治「大丈夫だろ、免許証見せれば」
俊彦「それ以前の問題だよ」
銀行の近くでまゆみは男と二人組のスケバン風の女子校生に絡まれていた。
繁治「こらぁ」
するとまゆみは男に噛み付いた。そこをスケバン風の女子校生に押さえつけられたのだ。まゆみは男に言いくるめられてどこかへ連れ去られた。
男「ふざけんな」
そして男が高松の池のほとりでまゆみを絞め殺した。まゆみは違う、あたしは弥生じゃなくてまゆみだと言いながら死んでいった。
繁治は悔しがった。
環「弥生って言ったのね。もしかして」
夏子「あの高橋弥生が?」
環は大谷の話を思い出した。もしかして福岡から弥生を狙った刺客が差し向けられたのかもしれない。
環「弥生が危ないわ」
繁治「わかった、それじゃ僕も協力する」
夏子「国分さんは原君と一緒に行動して。あとでまた連絡する」
環「落ち合う場所は大通りの地酒バー」
繁治もハングタンと契約することになった。
弥生はバスケットゴールを見つめながら沈黙した。
弥生「まさか、藤崎さんがここまで」
その姿を見た間宮は心配そうだったので保健室に弥生を連れた。
間宮「淳子先生」
養護教諭の鈴木淳子が弥生を診た。恋の病は専門外と言う淳子だったが、どうやら淳子の見立てでは藤崎という言葉が問題らしい。
淳子「藤崎って人なのかしら」
間宮「このこと、牧村先生に報告します」
間宮は環に弥生の無気力について報告。さらに藤崎と言う人物についても話した。
間宮「もしかして福岡でいじめに遭ったときの…」
環「福岡と関係があるのかな、やっぱり」
環は俊彦に電話をかけた。藤崎について何か知らないかということだった。わかり次第地酒バーで報告するということになった。
数日後、バスケの練習を終えた弥生、美雪、愛里をまゆみを絞殺した男と数人の取り巻きが包囲した。
弥生「ふ、藤崎さん」
美雪「うえっ、これが藤崎さん?」
藤崎はこぶしを鳴らした。
弥生「どうしてここが」
藤崎「俺がいちゃ悪いか?高橋」
愛里「弥生先輩、逃げて」
しかし藤崎の取り巻きたちが美雪と愛里の退路を塞いだ。そして藤崎は弥生の首を絞め、気道を完全に塞いだかに見えた…
弥生「もうダメ」
そこへ繁治がやってきて、藤崎と取り巻きたちを撃退した。
繁治「弥生ちゃん、弥生ちゃん…」
繁治は弥生をもう一度保健室へ。淳子は藤崎に絞め殺されそうになった弥生に人工呼吸など施し、弥生は意識を回復した。
弥生「藤崎さん…あたしは悪くないよ」
繁治はその言葉を聞いて弥生に藤崎のことを聞こうとしたが、淳子と間宮に静止される。
さて、環は弥生が危うく絞殺されたことを知り高松の池のほとりへ。
環「弥生ちゃん、弥生ちゃん…敵は絶対取るわよ」
と、環が叢を調べているとそこで例のスケバン二人組が追われていた。
スケバンA「助けて」
スケバンB「騙したのね」
そして二人は男にサイレンサーつきの猟銃で撃たれた。
環「うわっ」
そして環は悲鳴を上げながらその場を走り去った。そこへ携帯電話が。
「和水待君 原俊」
携帯の画面に書かれたこの文字、これは地酒バーに来いと言う合図だった。
地酒バーに環、夏子、俊彦、繁治がやってきた。
環「実は5日前のスケバンが、あの現場で殺されたのよ」
俊彦「藤崎友則め、やはり口封じだ」
夏子「だから誰よ、藤崎って」
俊彦は新聞や雑誌の情報から藤崎友則を調べ上げていた。
俊彦「藤崎友則、31歳。飛梅女学園の体育教師だった」
夏子「だった?」
環「どうして過去形なの」
俊彦「この春クビになってる」
環「それが弥生とどんな関係…あっ」
環は弥生が福岡から来たと言うことを思い出し、もしやと思った。飛梅女学園と言えば九州屈指のバスケ強豪、弥生の実力ならそこのレギュラーも十分だ。そこへ藤崎がそれを妬んだ生徒を使ってスキャンダルを起こせばいじめも同然。
環「…藤崎先生はどうしてクビに?」
俊彦「それが高橋弥生というバスケ部員と恋に墜ちたとかで。しかもクビになってすぐに離婚している」
繁治「それだけじゃない、弥生の先輩の藤川と言う生徒が首吊り自殺を図ったこともあった。それにも藤崎が一枚噛んでたってらしい」
夏子「でもどうやってここにいることを知ったのかしら」
繁治「藤崎の同僚やそういった筋が盛岡にいないかと、念のため見てみましたよ。すると…」
そして俊彦がプリントを環と夏子に見せた。
環「えっ?山瀬学園に…」
繁治「まゆみもバスケ部だった。多分弥生と似ていたから藤崎は勘違いして…」
俊彦「山瀬学園の石井、要注意だ」
翌朝、ずっと寮の布団に寝ていた弥生が目を覚ました。
弥生「…ここどこ?あたし、あれ、藤崎さんは?」
ここで環と美雪は弥生に状況を説明する。
環「昨日藤崎さんに囲まれて、首を絞められそうになったところをある人に助けられたのよ」
弥生「えっ?」
弥生は窓の外に繁治がいるのを確認した。繁治は手を振りながら歩いていた。
弥生「さ、がんばろう!あの人のために絶対練習出るから」
美雪「そうそう、その調子よ」
一方夏子は葵とまどかに相談。誰かをおとりにして石井に接近することにしようと考えたからだが、葵は気が乗らなかった。
葵「誰かをおとりにしようなんて、そんなことなら先生が」
まどか「そうよ、すでに弥生ちゃんが被害に遭ったのよ。何とかして」
夏子「まぁそんなこと言わないで。あなたたちだって立派なハングタンよ」
そして夏子は立ち上がり、葵とまどかにハングタンのことを教えた。
夏子「ハングタンは学園内外のどうにもならならいような悪を制裁するの。そして社会的ダメージを与えて心のダメージを与える、これがハングタンの死刑執行よ」
葵「叔父さんもそういうことしてましたね」
夏子「そっか、葵ちゃんの叔父さんはラグビー選手で今は社長だもんね」
夏子は新選組のことは話さなかったようだ。
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