Information「ALTI BUYOH FESTIVAL 2008」
<連句の世界-安東次男「芭蕉連句評釈」より>
「狂句こがらしの巻」-06
朝鮮のほそりすゝきのにほひなき
日のちりちりに野に米を刈 正平
次男曰く、散散ならチリヂリだが、物の縮むさま、日の薄れるさまを表す副司ならチリチリである。
打越-前々句-を朝、前句を昼と、時分を見定めて晩景を付出している。稲刈りを「米を刈(る)」と云回したところも、単なる貞享頃の流行りと見過すわけにはゆかぬようだ。「米を刈」は季語とも云いきれぬ。春秋の句は三句以上-五句まで-という制式に照らせば、はこびは次のように読める。
有明の主水に酒屋つくらせて-雑(月-秋)
かしらの露をふるふあかむま-秋
朝鮮のほそりすゝきのにほひなき-秋
日のちりちりに野に米を刈-雑(秋)
続きを秋三句と見るか四句と見るかは、人それぞれで、当座のことは作者たちにでも聞くしかないことだが、「米を刈」は「有明の主水」をにらんで合せの秋とした一趣向と読んでよい。ならば、雑の詞を以てしたこの稲刈りはよほど季節外れで、さては晩稲刈なるか。思いがけぬところに滑稽の狙いをさぐらせる。「にほひなき」を細り芒から落日に移した付には違いないが、そもそも思い付きのヒントは前句の作者-杜国-が米屋だったかからかもしれぬ。
五人の連衆で歌仙を巻けば、七巡と一句を余す。初折・表六句目に執筆-この場合、正平-の座を設けて、初巡abcde(f)、二巡以下をbadca・ecbedの繰り返しとするのが通例である。正平は尾張の人で小池氏を称したと伝えるが、詳らかにしない、と。
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