『大勢の力を集めて事業をやろうとすると、さまざまな誤解や中傷は避けられません。そうして足を引っ張るのは、外の競争相手や敵意を持った人ばかりかと思うと、その元は内部にあることが多いのですね。組織の中にそういう人がいると、「そんな危険な人間は切り捨てなければならん」と考えるのがふつうです。ところがお釈迦さまは、自分に背く者をも懐に抱え込んでしまわれるのです。
がまんして使ってやる、警戒しながら使っていくというのではありません。そういう人を「自分を大きくしてくれるお師匠さん」と決めてしまうのです。そういう心になると、なぜ身内の人間がそこまで追い詰められてしまったか、考えずにいられなくなってきます。こちらにも反省しなければならないところがあったのではないか、と考えられるようになってきます。これが『法華経』の「提婆達多品(だいばだったほん)」の教えです。
そういう考え方ができるようになると、どんな問題が起ころうと、また、どんな人に対そうと、腹が立たなくなります。
信仰者であることの第一の条件は、どんな人も信じきって、豊かな、ほがらかな気持ちで対せることだと思うのです。』
庭野日敬著『開祖随感』より