お迎えパパは戦力外?
<育児>子供をお迎えに行く父親は本当に出世できないのか
毎日新聞 10月12日(月)10時11分配信
都市部で働く母親が子供を保育園に入れても、問題が次々と立ちはだかります。その一つが保育園のお迎え。保育園の閉園時間は夕方6~7時ごろ、この時間が、日本の企業が求める働き方と相いれないのです。明治大商学部准教授(社会学)の藤田結子さんが保育園の「送り迎え」の現状を報告します。
◇企業の求める働き方と相いれないお迎え時間
都心から電車で約20分の街にある公立認可保育所をのぞいてみました。夕方5時半、仕事帰りの親たちが次々とお迎えにやって来ます。ホールで遊んでいる子どもたちの視線はちらちらと入り口のほうに。青いTシャツを着た幼い男の子は、母親の姿を見つけると「ママー!」と笑顔で駆け寄りました。祖父母の姿もありますが、ほとんどがお母さん。父親らしき男性は少数です。
勤務場所にもよりますが、都市部で夕方6~7時までに保育園に駆けつけるには、遅くとも午後5時半ごろに仕事を切り上げないと間に合わないでしょう。多くの母親は、お迎えに行くために時短勤務や責任の軽い仕事、パートタイム労働にシフトせざるを得ません。
実際、厚生労働省の調査(2012年)によれば、保育園の送り迎えをしている約171万世帯のうち、「送り迎えとも母親」は115万世帯(約7割)に達しています。「父親が送り、お迎えは母親」が16万世帯、「送り迎えのいずれかが母親」が13万世帯。共働きであっても送迎は圧倒的に母親の役目、父親がお迎えを担当する世帯は1割以下です。
子供の送り迎えはかなり複雑なマルチタスクです。疲れた体で通勤電車に揺られ、夕食の献立と食材の買い物を考えつつ、駅に着いたらヒールの靴で小走りに駐輪場へ。全速力で自転車を飛ばし、ぎりぎり園に滑り込みます。休む間もなく買い物と夕食作りですが、いくら効率よく成し遂げても評価されることはまずありません。
さらに、大きな変化があります。保育園のベテラン保育士さんは「20年前と比べて、一部のお母さんたちの働き方が男性のようになってきました」と言うのです。
「朝10時に始まって夜9時に終わるような働き方の女性が増えました。延長保育が終わって、ベビーシッターさんが迎えに来て、親が帰るまでシッターさんと一緒に家で待つ子供もいます」
3歳児クラスのある男の子の場合、保育園を終わると、夜10時まで延長保育をしている次の保育園に移動します。次の園で夕飯を食べ、夜8時過ぎにようやく母親が迎えに来て、家に帰ります。
一人親家庭や、夜間働かざるを得ない親と子供のための延長・夜間保育は増加し、その時間も夜10時、夜12時、深夜1時、翌朝お迎えに来る24時間型などさまざまです。男性並みに働く母親が増え、保育ニーズが多様化していることの表れです。
働く母親に偏る育児負担を減らすためには、延長・夜間保育や病児・病後児保育などの育児サービスの充実が欠かせません。しかし、育児の外部化を進めるだけなら、「男並み」に働こうとする母親の長時間労働を促す恐れがあります。
こうした負担を減らすには、育児サービス充実と同時に、男性を中心とする長時間労働の解消が必要です。
日本の正社員の働き方は、残業が日常化しても、会社の要請に従うことを求める「無限定性」が特徴です。子どもを持った後も、男性の多くは中核社員として長時間働き続けます。他方、女性は仕事にやりがいを見いだしても、子育ての制約ゆえにマミートラック(社内の補助的業務に回されて昇進や昇給から遠ざかる職務コースを表す言葉)や、パートタイム労働へと追いやられがちです。
「育児は女性が担う」という性役割意識、残業しないで定時に帰ることを「勤勉でない」「やる気がない」と見る職場文化も、父親のお迎えをためらわせる要因です。そうした文化の中で、男性の多くは「職場から戦力外と見なされる恐怖」を内面化しています。だから早く帰れないのです。
働く男性の意識や社会や企業の制度を変えないと、女性の活躍は進まないでしょう。育児に参加したいと考える若い男性は、職場に魅力を感じなくなるかもしれません。
北欧やフランスなどは日本より労働時間が短く、女性が働き続け、そして少子化を改善しています。父親たちは朝の通勤ラッシュ時にベビーカーを押し、スーツで保育園にお迎えに来ています。
日本のお父さんもまずは週1回、保育園にお迎えに行ってみてはどうでしょうか。