*感染症医が話す「なぜワインは疲労を回復させ、心に潤いを与え、薬にもなるのか?」〈dot.〉
8/27(火) 7:00配信
感染症は微生物が起こす病気である。そして、ワインや日本酒などのアルコールは、微生物が発酵によって作り出す飲み物である。両者の共通項は、とても多いのだ。
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感染症を専門とする医師であり、健康に関するプロであると同時に、日本ソムリエ協会認定のシニア・ワイン・エキスパートでもある岩田健太郎先生が「ワインと健康の関係」について解説したこの連載が本になりました!『ワインは毒か、薬か。』(朝日新聞出版)カバーは『もやしもん』で大人気の漫画家、石川雅之先生の書き下ろしで、4Pの漫画も収録しています。
* * *
さあ、お待たせしました。それではアルコール類の中でも、ワインはどうかという議論をしよう。
昔からワインは健康に寄与する飲み物だと考えられてきた。
ヒュー・ジョンソンの『ワイン物語』によると、ユダヤ教の聖典「タルムード」には「ワインがなくなれば薬が必要になる」と書かれているそうだ。また、同時期(紀元前6世紀)のインドの医学書にもワインが「心と体の活性剤であり、不眠と悲しみと披露を癒し……食欲と幸福感と消化を促進する」と書かれているとか。
■適量を少しずつ飲むなら、ワインは甘美な朝露
ギリシアの哲学者ソクラテスはこう言ったそうだ。「ワインは気持ちを和らげ、心に潤いを与えてくれる。そして心配ごとを静め、休息を与え……われらの喜びを甦らせ、消え行く命の炎に油を注いでくれるものである。適量を一度に少しずつ飲むなら、ワインはこのうえなく甘美な朝露のように、我らの肺に滴り落ちる……。そのときこそ、ワインは理性に何ら害を与えず、快い歓喜の世界に気持ちよくわれらを誘ってくれるのである」(ヒュー・ジョンソン『ワイン物語』より)
ワインが「肺に滴り落ちる」という表現がぼくには興味深い(もちろん、本当は食道から胃に落ちていく)。あと、「適量を一度に少しずつ飲むならば」という条件付けがされているのも興味深い。「では、そうでないときは?」とソクラテス先生に訊いてみたい気がする。
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感染症を専門とする医師であり、健康に関するプロであると同時に、日本ソムリエ協会認定のシニア・ワイン・エキスパートでもある岩田健太郎先生が「ワインと健康の関係」について解説したこの連載が本になりました!『ワインは毒か、薬か。』(朝日新聞出版)カバーは『もやしもん』で大人気の漫画家、石川雅之先生の書き下ろしで、4Pの漫画も収録しています。
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さあ、お待たせしました。それではアルコール類の中でも、ワインはどうかという議論をしよう。
昔からワインは健康に寄与する飲み物だと考えられてきた。
ヒュー・ジョンソンの『ワイン物語』によると、ユダヤ教の聖典「タルムード」には「ワインがなくなれば薬が必要になる」と書かれているそうだ。また、同時期(紀元前6世紀)のインドの医学書にもワインが「心と体の活性剤であり、不眠と悲しみと披露を癒し……食欲と幸福感と消化を促進する」と書かれているとか。
■適量を少しずつ飲むなら、ワインは甘美な朝露
ギリシアの哲学者ソクラテスはこう言ったそうだ。「ワインは気持ちを和らげ、心に潤いを与えてくれる。そして心配ごとを静め、休息を与え……われらの喜びを甦らせ、消え行く命の炎に油を注いでくれるものである。適量を一度に少しずつ飲むなら、ワインはこのうえなく甘美な朝露のように、我らの肺に滴り落ちる……。そのときこそ、ワインは理性に何ら害を与えず、快い歓喜の世界に気持ちよくわれらを誘ってくれるのである」(ヒュー・ジョンソン『ワイン物語』より)
ワインが「肺に滴り落ちる」という表現がぼくには興味深い(もちろん、本当は食道から胃に落ちていく)。あと、「適量を一度に少しずつ飲むならば」という条件付けがされているのも興味深い。「では、そうでないときは?」とソクラテス先生に訊いてみたい気がする。
古代ギリシアの「医聖」ヒポクラテス(BC460年ごろ~BC370年ごろ)は「医学の父」と呼ばれているが、その治療法の殆どにワインが関わっていたという。彼はワインを解熱剤として用い、消毒薬として用い、利尿薬として用い、疲労回復剤として用いていた。
確かに、ワインを飲めば体表の血管が拡張して体温は下がるかもしれない。若干の解熱作用はあったかもしれない。アルコール消毒は現在でも使われているし、アルコールの利尿作用はたしかにある。
多くの人が酒を飲んだあと疲労が回復した感じがし(「疲労」は主観なので、主観的によくなっていればそれでいいのだ)、そのためにサラリーマンは仕事が終わると「一杯やって」となる。ヒポクラテス、なかなか理にかなったワインの活用をしているとぼくは思う。
『ワイン物語』には、ヒポクラテスのワイン使用法も引用されている。実に面白い。「口当たりのよい赤ワインには水分が多く、腹の張りを起こし、大便として排出されるものが多い……苦い白ワインは喉を渇かさせずに人の体を暖め、大便よりも尿としてよく排出される。
新しいワインは古いワインより大便となりやすい。なぜなら、発酵前のブドウ果汁に近いために栄養分が多いからである……。ブドウ果汁は腸内にガスを発生させ、腸を刺激して排便を促す」。ヒポクラテスは、ワインを便秘の薬か整腸剤みたいに使っていたのだろうか。
ほかにも、ワインを温めすぎず冷やしすぎないよう、といった細かな指示を与えていたようだ。冷やしすぎた白ワインを飲みすぎると体によくない、みたいなコメントもしている。
彼のワイン使用法を見ていると、貝原益軒の「養生訓」を思い出す。現在では漢方や鍼灸を使う東洋医学と、ハイテクな西洋医学は全く別物という印象だ。が、私見だが、近代医学以前の時代において、医学は東洋も西洋もだいたい同じようなフィロソフィーで提供されていたのではなかろうか。
ローマのプリニウス(22頃-79)は、博覧強記の博物学者だ。ワインに植物を付ける、現在でいうところのベルモットの祖先のようなものに言及している。どうもギリシア人が香料、ときに海水(!)をワインにつけて飲んでいたようで、このようなワインの飲み方は「ギリシア風」と呼ばれていたそうだ。プリニウスは海水を加えたワインがお嫌いで、「海に捨ててしまえ」と言ったとか。まあ、ぼくもプリニウスに同意見だ。
確かに、ワインを飲めば体表の血管が拡張して体温は下がるかもしれない。若干の解熱作用はあったかもしれない。アルコール消毒は現在でも使われているし、アルコールの利尿作用はたしかにある。
多くの人が酒を飲んだあと疲労が回復した感じがし(「疲労」は主観なので、主観的によくなっていればそれでいいのだ)、そのためにサラリーマンは仕事が終わると「一杯やって」となる。ヒポクラテス、なかなか理にかなったワインの活用をしているとぼくは思う。
『ワイン物語』には、ヒポクラテスのワイン使用法も引用されている。実に面白い。「口当たりのよい赤ワインには水分が多く、腹の張りを起こし、大便として排出されるものが多い……苦い白ワインは喉を渇かさせずに人の体を暖め、大便よりも尿としてよく排出される。
新しいワインは古いワインより大便となりやすい。なぜなら、発酵前のブドウ果汁に近いために栄養分が多いからである……。ブドウ果汁は腸内にガスを発生させ、腸を刺激して排便を促す」。ヒポクラテスは、ワインを便秘の薬か整腸剤みたいに使っていたのだろうか。
ほかにも、ワインを温めすぎず冷やしすぎないよう、といった細かな指示を与えていたようだ。冷やしすぎた白ワインを飲みすぎると体によくない、みたいなコメントもしている。
彼のワイン使用法を見ていると、貝原益軒の「養生訓」を思い出す。現在では漢方や鍼灸を使う東洋医学と、ハイテクな西洋医学は全く別物という印象だ。が、私見だが、近代医学以前の時代において、医学は東洋も西洋もだいたい同じようなフィロソフィーで提供されていたのではなかろうか。
ローマのプリニウス(22頃-79)は、博覧強記の博物学者だ。ワインに植物を付ける、現在でいうところのベルモットの祖先のようなものに言及している。どうもギリシア人が香料、ときに海水(!)をワインにつけて飲んでいたようで、このようなワインの飲み方は「ギリシア風」と呼ばれていたそうだ。プリニウスは海水を加えたワインがお嫌いで、「海に捨ててしまえ」と言ったとか。まあ、ぼくもプリニウスに同意見だ。
■ワインと薬を混ぜた、毒殺を予防するための飲み物
紀元二世紀の医の巨人ガレノス(129頃-200頃)もワインについてくわしく述べている。彼の医学は19世紀までの西洋医学の方針を決めてしまったほどの巨人で、非常い権威を持っていた。
もっとも、ガレノスはけっこう間違いも多く、その間違いも千年以上継承されてしまったので、ガレノスのダークサイドも大きいのだけど。このへんはアリストテレスの言説が無謬に違いない、という「権威」となってしまったのとよく似ている。
ガレノスはローマ皇帝の侍医だった。皇帝が毒殺されるのを予防するためにワインと薬を混ぜた飲み物を飲ませていたそうだ。この飲み物は万能薬(テリアカ)と呼ばれ、歯肉潰瘍からペストまでなんでも治すと18世紀まで信じられていた。
外傷患者に対するガレノスの治療法は傷口にワインを浸すことだった。ガレノス自身は自分の治療を受けて死んだ剣闘士は一人もいないと豪語していたそうだが、まあ眉唾だろう。現在でもそのような大口をたたく医者をぼくは知っているから、あまり驚きはないけれど。
フランスのブルボン朝国王アンリ4世は「よき料理、よきワインがあれば、この世は天国」と言った。詩人のゲーテは「ワインのない食事は太陽の出ない一日」と言ったとか。さらに、宗教改革で有名なマルティン・ルターは「ワインと女を愛さぬ者は、生涯の愚者であろう」と言ったとか。厳格なプロテスタントの創始者にしてはずいぶん享楽的な箴言を残したものだ。
イタリアの医師、アンドレア・パッチはワインの薬効を示す著作を出していたというが、残念ながらこの本をぼくは入手できなかった。お持ちの方がいらしたらぜひ読ませてほしい。
オランダの学者エラスムスは『健康の管理』というそのものズバリの本の中で、「ワインや他の酒は、度を過ぎなければ、害のない、最も有益な薬であり、最も快い飲み物である……。それゆえ、毎日、われわれの飲むワインにグラス1~2杯の水を加える習慣をつけるのが好ましい。そうすればワインの毒気が頭に回るのも遅れ、また太ることもない」と述べている。穏当な意見だと思う。
紀元二世紀の医の巨人ガレノス(129頃-200頃)もワインについてくわしく述べている。彼の医学は19世紀までの西洋医学の方針を決めてしまったほどの巨人で、非常い権威を持っていた。
もっとも、ガレノスはけっこう間違いも多く、その間違いも千年以上継承されてしまったので、ガレノスのダークサイドも大きいのだけど。このへんはアリストテレスの言説が無謬に違いない、という「権威」となってしまったのとよく似ている。
ガレノスはローマ皇帝の侍医だった。皇帝が毒殺されるのを予防するためにワインと薬を混ぜた飲み物を飲ませていたそうだ。この飲み物は万能薬(テリアカ)と呼ばれ、歯肉潰瘍からペストまでなんでも治すと18世紀まで信じられていた。
外傷患者に対するガレノスの治療法は傷口にワインを浸すことだった。ガレノス自身は自分の治療を受けて死んだ剣闘士は一人もいないと豪語していたそうだが、まあ眉唾だろう。現在でもそのような大口をたたく医者をぼくは知っているから、あまり驚きはないけれど。
フランスのブルボン朝国王アンリ4世は「よき料理、よきワインがあれば、この世は天国」と言った。詩人のゲーテは「ワインのない食事は太陽の出ない一日」と言ったとか。さらに、宗教改革で有名なマルティン・ルターは「ワインと女を愛さぬ者は、生涯の愚者であろう」と言ったとか。厳格なプロテスタントの創始者にしてはずいぶん享楽的な箴言を残したものだ。
イタリアの医師、アンドレア・パッチはワインの薬効を示す著作を出していたというが、残念ながらこの本をぼくは入手できなかった。お持ちの方がいらしたらぜひ読ませてほしい。
オランダの学者エラスムスは『健康の管理』というそのものズバリの本の中で、「ワインや他の酒は、度を過ぎなければ、害のない、最も有益な薬であり、最も快い飲み物である……。それゆえ、毎日、われわれの飲むワインにグラス1~2杯の水を加える習慣をつけるのが好ましい。そうすればワインの毒気が頭に回るのも遅れ、また太ることもない」と述べている。穏当な意見だと思う。
当時のヨーロッパではコレラなどの疫病がしばしば流行し、それは清潔な飲水が安定して得られなかった。そういう意味では殺菌済みのワインは安全な飲料ということはいえたかもしれない。今はそんなことはないが、ぼくが初めてフランスに滞在した1990年代にはフランスでは「水よりワインが安い」時代で、みんな本当にワインをよく飲んでいた。最近はフランスでもワインの消費量がずいぶん減ったと言うけれども。
オーストラリアもよいワインができることができることで有名だ。オーストラリアワインで、特に有名なブランドにペンフォールドがある。創始者はクリストファー・ペンフォールドという医者だった。ワインを飲むと患者が元気になることから、ワイン会社を自分で作ったのだとか。すごいですね。
■抗生物質がなかった時代、ワインは感染症の予防や治療(消毒)に
さて、このように昔からワインは「からだによい飲み物」だとされ続けてきた。その根拠は飲むと快活になること、疲れが取れる(ような気になる)こと、それと抗生物質のなかった時代の感染症の予防や治療(消毒)のためであったと推測される。
また、ワインがカリウムやカルシウムといったミネラルが豊富で野菜や果物と同じ健康効果が期待できる点、アルコールやアミノ酸といったカロリーになる(エネルギー源になる)点、アルコールが唾液や胃液の分泌を促進して食欲増進や消化の促進に役立つであろう点、ストレス解消や熟眠に有効な点、血小板凝集を抑制する(いわゆる「血液サラサラ」効果)点、善玉コレステロール(HDL)の上昇効果といった点もワインが健康によい根拠として指摘されている。
さらに、赤ワインの摂取が心疾患を減らすという意見もある。これはバターたっぷりの食事をとってもアメリカ人のように肥満せず、健康なフランス人の説明として赤ワインやチーズがその原因ではないかという仮説だ。
これを「フレンチ・パラドックス」と呼んでいることはすでに述べた。動脈硬化は低密度リポ蛋白(LDL),いわゆる「悪玉コレステロール」の血管壁への沈着と、活性酸素による酸化効果が原因とされている。なので、抗酸化物質である赤ワインのポリフェノールが動脈硬化の予防、ひいては脳卒中や心疾患の予防に効果があるのでは、と考えられてきた。
オーストラリアもよいワインができることができることで有名だ。オーストラリアワインで、特に有名なブランドにペンフォールドがある。創始者はクリストファー・ペンフォールドという医者だった。ワインを飲むと患者が元気になることから、ワイン会社を自分で作ったのだとか。すごいですね。
■抗生物質がなかった時代、ワインは感染症の予防や治療(消毒)に
さて、このように昔からワインは「からだによい飲み物」だとされ続けてきた。その根拠は飲むと快活になること、疲れが取れる(ような気になる)こと、それと抗生物質のなかった時代の感染症の予防や治療(消毒)のためであったと推測される。
また、ワインがカリウムやカルシウムといったミネラルが豊富で野菜や果物と同じ健康効果が期待できる点、アルコールやアミノ酸といったカロリーになる(エネルギー源になる)点、アルコールが唾液や胃液の分泌を促進して食欲増進や消化の促進に役立つであろう点、ストレス解消や熟眠に有効な点、血小板凝集を抑制する(いわゆる「血液サラサラ」効果)点、善玉コレステロール(HDL)の上昇効果といった点もワインが健康によい根拠として指摘されている。
さらに、赤ワインの摂取が心疾患を減らすという意見もある。これはバターたっぷりの食事をとってもアメリカ人のように肥満せず、健康なフランス人の説明として赤ワインやチーズがその原因ではないかという仮説だ。
これを「フレンチ・パラドックス」と呼んでいることはすでに述べた。動脈硬化は低密度リポ蛋白(LDL),いわゆる「悪玉コレステロール」の血管壁への沈着と、活性酸素による酸化効果が原因とされている。なので、抗酸化物質である赤ワインのポリフェノールが動脈硬化の予防、ひいては脳卒中や心疾患の予防に効果があるのでは、と考えられてきた。
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以前マシューは、メッセージで赤ワイン以外のアルコールは健康に悪影響を及ぼすと伝えてくれました。
それ以来7.8年くらいですか、管理人は赤ワインをほぼ毎日グラス一杯を呑むという、自己人体実験を続けております(笑)
グラス一杯でも本当は多い?のかも知れませんが、一杯くらいが私にはちょうどいいと感じております。二杯呑むと飲み過ぎ感が残ります。
赤ワインの種類は決まっておらず、こだわりはありません。仕事帰りにコンビニで買って帰って来ることが多く、インターネットで欧州のオーガニックワインをまとめ買いすることもあります。
ちなみに管理人の好きなワインのお供は、キムチです。キムチは発酵食品ですし唐辛子が更に血流を上げてくれます。低血圧のわたしにはとても有難い。また赤ワインにはチョコレートも合いますね。
おかげさまで、病気をすることもなく、管理人は相変わらず、すこぶる元気でございます。
この記事を読んでみると、なぜマシューが赤ワインを推奨しているか理解できました。
そうは言っても、赤ワインが免疫系を上げるからと、たくさん呑んでも意味ないんですよ。管理人もたまには飲み過ぎて、頭が痛くなることもありますが(笑)
最近は社会・政治や経済という堅苦しい記事が多くなっていますので、このナンバーは小休止のつもりです(笑)
癒される猫たちの話題も載せたいのですが、とりあえず今日は、皆さまにワインの効果をお伝えできて良かったです。
あるがままで