ある日、巷でも有名なヨガ師(ヨギ)が、足を引きずって歩いている婦人に声をかけた。
「あなたの身体は歪んでいますね。医者は治せませんよ。ヨガで治ります。無料でいいです、スクールにいらっしゃい」
そう言ってヨギは自分が書いた本を、「読んで勉強しなさい…」と婦人に渡した。
巷でも有名なヨギに声をかけられ、婦人は繁忙期を超えたらヨギのスクールに通うつもりでいた。しかし婦人は家族のこと仕事のことで忙しく、ヨギのスクールには顔を出せず、なかなか本を読む時間もなかった。
そしてひと月ほど後のある日、ヨギは婦人のところを再度訪ねた。その時婦人は留守で、ヨギは使用人に言った。
「本を返してくださいと伝えて下さい。治す気がないのですね。ほっといても良くなりませんよ」
すこし不満そうにヨギは続けた。
「婦人は生き方が悪い」
使用人は耳を疑った。特定した個人である婦人の生き方を、見ず知らずの使用人にヨギは説き始めたからだ。ヨギの発言としてはあまりにも軽率だった。
使用人は『生き方』と『歩き方』を聞き間違えた振りをして
「先生、そうですよね。歩き方が悪いと歪んできますよね」
そういうとヨギは使用人の顔を覗いて聞いた
「あなたは痛いところはないの?」
使用人は答えた
「今のところはありません」
ヨギは最後の一言をこんな言葉で締めくくった
「いつか歪んでくるよ」
ヨギからはアルコールの臭いが漂っていた。
使用人は、その日のうちにヨギからの伝言を婦人に伝えた。それを聞いた婦人は、翌日にはヨギに茶菓子を添えて本を返せるよう手はずを整えた。
婦人が連絡をしたら、ヨギはいつ来られるか分からないと返答したという。しかしヨギはその日の夕方に姿を見せた。
前日に話した使用人の顔をヨギは覚えていなかった。婦人から預かっていた茶菓子と本を受け取ると、ヨギは上機嫌で帰って行った。
ヨギからはまたアルコールの臭いが漂っていた。
あるがままで