前回の『みなせゼミの名状し難き夏休み』の記事で、アーカムの魔女“キザイア・メイスン”についてちょっと触れたので、もう少し言及しておこうかと思う。
みなせゼミ民俗学探索パーティの一員である眼鏡美人の古物商、信濃川さんが「アーカムの魔女といえば、アセナス・ウェイトかケザイア・メーソンかというぐらい有名な魔女です。」と言っていたことからも、この魔女がいかに畏怖すべき存在であるかが窺い知れることだろう。
アメリカ合衆国はマサチューセッツ州に実在する田舎町セイレムは、1692年の魔女裁判で有名な土地。
200名を越える住民が魔女の嫌疑をかけられ逮捕され、獄死したものを含め死者の数は25人にも上ったという。(ウィノナ・ライダーが告発人役を演じる映画『クルーシブル』でもその時のことが克明に描かれてるのでご参考までに。)
ほとんどの者が無実の罪であったらしいが、キザイア・メイスンはこの逮捕者の中のひとりで、一時はセイレムの刑務所に投獄されたが、死刑宣告後、まんまと脱獄に成功してアーカムに落ち延び、とある駒形切妻造りの屋根裏部屋を隠れ家として暗躍していたという。それ以来、この屋敷は<魔女の家>と呼ばれるようになる。
キザイアの独房の壁には、赤いネバネバした液体で描かれた特異な曲線や角度が残されており、当事者であるコットン・マザー(『不可視世界の驚異』などの著書で魔女狩りを扇動した聖職者)もこの脱走劇の謎を解くことは出来なかったという。
キザイアは脱獄前、高等刑事裁判所にてホーソーン裁判官に、「ある種の直線と曲線をもってすれば、空間の壁を抜けて、そのむこうの別の空間に通じる方向を示せる」ことを告げている。
あと、<暗黒の男>と呼ばれる存在との契約のこと、その存在に“ナハブ”という別の新しい名前を授かったことも語ったという。
この<暗黒の男>こそ、『ネクロノミコン』でほのめかされている<ナイアルラトホテップ>の顕現にほかならない。
また、キザイア・メイスンは“ブラウン・ジェンキン”という人間くさい名前を持つ使い魔を飼っており、おぞましくも己の血を吸わせて育てていたという。
ブラウン・ジェンキンは、大型の鼠くらいのすばしっこい毛むくじゃらの生物で、鋭い牙を持ち、髭を生やした人間の顔をしているという。あらゆる言語を話し、なにかにつけて鼻をこすりつけてきたりと、とにかくタチが悪くおぞましい存在だという。
<魔女の家>は実在する。傾斜した屋根裏の外壁と内壁の間には、三角形の空間があるという。
ミスカトニック大学の理数系の学生ウォルター・ギルマンは、かつてキザイア・メイスンの隠れ家であった切妻造りの屋根裏部屋に下宿しており、その部屋の壁と天井にやけに不規則な傾斜を見いだし、その壁と天井のおりなす奇妙な角度になにかしら数学的な意味合いを読みとってから、測り知れない太古から連綿と伝えられる魔術伝承と高等数学とを結びつける、ある種の直線と曲線による空間移動の可能性を解き明かそうと躍起になっていったのだった。
彼は大学の付属図書館で恐るべき『ネクロノミコン』や断片だけが残る『エイボンの書』、ルドウィク・プリンの『無銘祭祀書』などを調べるうちに、すでに空間の特性ならびに、既知の次元と未知の次元の繋がりに関わる自らの象徴的な方程式に関連をもつ空恐ろしい手がかりを見いだしていたのだ。
深みにはまった彼は毎晩悪夢を見るようになり、夢の中でキザイア・メイスンが執り行うおぞましいサバトの闇黒の儀式に立ちあったり、怒号する果てしない薄明の深淵や、隆起をもった樽状のグロテスクな小像の並ぶ欄干のテラスに立っている妙な夢の情景にうなされるようになる。
そして、ある夜ギルマンは、屋根裏部屋のベッドの上で心臓をえぐられた変死体と変わり果ててしまうのであった。
床には人間の手に似た小さな血の足跡が残っていたという。
実は私の住んでる部屋の天井の壁にも、奇妙な角度をもった出っ張りが見いだされる。
幸い私は高校卒業が危ぶまれたほどに昔から数学が大の苦手なので、そっからキザイアの移動した空間などを見いだすことはまずないだろう。
まぁ1階に住む迷信深い住民が哀れっぽい祈りを唱えはじめたり、南天の海蛇座とアルゴ座のあいだにある一点に引き寄せられそうになったら、せいぜい気をつけようかと思う。
念のためお札と警護は配してある。
今日の1曲:『魔女よ、誘惑するなかれ』/ Black Sabbath
みなせゼミ民俗学探索パーティの一員である眼鏡美人の古物商、信濃川さんが「アーカムの魔女といえば、アセナス・ウェイトかケザイア・メーソンかというぐらい有名な魔女です。」と言っていたことからも、この魔女がいかに畏怖すべき存在であるかが窺い知れることだろう。
アメリカ合衆国はマサチューセッツ州に実在する田舎町セイレムは、1692年の魔女裁判で有名な土地。
200名を越える住民が魔女の嫌疑をかけられ逮捕され、獄死したものを含め死者の数は25人にも上ったという。(ウィノナ・ライダーが告発人役を演じる映画『クルーシブル』でもその時のことが克明に描かれてるのでご参考までに。)
ほとんどの者が無実の罪であったらしいが、キザイア・メイスンはこの逮捕者の中のひとりで、一時はセイレムの刑務所に投獄されたが、死刑宣告後、まんまと脱獄に成功してアーカムに落ち延び、とある駒形切妻造りの屋根裏部屋を隠れ家として暗躍していたという。それ以来、この屋敷は<魔女の家>と呼ばれるようになる。
キザイアの独房の壁には、赤いネバネバした液体で描かれた特異な曲線や角度が残されており、当事者であるコットン・マザー(『不可視世界の驚異』などの著書で魔女狩りを扇動した聖職者)もこの脱走劇の謎を解くことは出来なかったという。
キザイアは脱獄前、高等刑事裁判所にてホーソーン裁判官に、「ある種の直線と曲線をもってすれば、空間の壁を抜けて、そのむこうの別の空間に通じる方向を示せる」ことを告げている。
あと、<暗黒の男>と呼ばれる存在との契約のこと、その存在に“ナハブ”という別の新しい名前を授かったことも語ったという。
この<暗黒の男>こそ、『ネクロノミコン』でほのめかされている<ナイアルラトホテップ>の顕現にほかならない。
また、キザイア・メイスンは“ブラウン・ジェンキン”という人間くさい名前を持つ使い魔を飼っており、おぞましくも己の血を吸わせて育てていたという。
ブラウン・ジェンキンは、大型の鼠くらいのすばしっこい毛むくじゃらの生物で、鋭い牙を持ち、髭を生やした人間の顔をしているという。あらゆる言語を話し、なにかにつけて鼻をこすりつけてきたりと、とにかくタチが悪くおぞましい存在だという。
<魔女の家>は実在する。傾斜した屋根裏の外壁と内壁の間には、三角形の空間があるという。
ミスカトニック大学の理数系の学生ウォルター・ギルマンは、かつてキザイア・メイスンの隠れ家であった切妻造りの屋根裏部屋に下宿しており、その部屋の壁と天井にやけに不規則な傾斜を見いだし、その壁と天井のおりなす奇妙な角度になにかしら数学的な意味合いを読みとってから、測り知れない太古から連綿と伝えられる魔術伝承と高等数学とを結びつける、ある種の直線と曲線による空間移動の可能性を解き明かそうと躍起になっていったのだった。
彼は大学の付属図書館で恐るべき『ネクロノミコン』や断片だけが残る『エイボンの書』、ルドウィク・プリンの『無銘祭祀書』などを調べるうちに、すでに空間の特性ならびに、既知の次元と未知の次元の繋がりに関わる自らの象徴的な方程式に関連をもつ空恐ろしい手がかりを見いだしていたのだ。
深みにはまった彼は毎晩悪夢を見るようになり、夢の中でキザイア・メイスンが執り行うおぞましいサバトの闇黒の儀式に立ちあったり、怒号する果てしない薄明の深淵や、隆起をもった樽状のグロテスクな小像の並ぶ欄干のテラスに立っている妙な夢の情景にうなされるようになる。
そして、ある夜ギルマンは、屋根裏部屋のベッドの上で心臓をえぐられた変死体と変わり果ててしまうのであった。
床には人間の手に似た小さな血の足跡が残っていたという。
実は私の住んでる部屋の天井の壁にも、奇妙な角度をもった出っ張りが見いだされる。
幸い私は高校卒業が危ぶまれたほどに昔から数学が大の苦手なので、そっからキザイアの移動した空間などを見いだすことはまずないだろう。
まぁ1階に住む迷信深い住民が哀れっぽい祈りを唱えはじめたり、南天の海蛇座とアルゴ座のあいだにある一点に引き寄せられそうになったら、せいぜい気をつけようかと思う。
念のためお札と警護は配してある。
今日の1曲:『魔女よ、誘惑するなかれ』/ Black Sabbath
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