バンコク名物は何かと問えば、ストリートフード(屋台)と答える人は多いだろう。それほど屋台はどこにでもあり、各種ご飯もの、麺類、揚げ物、海鮮、スナック、酒の肴、スイーツ、果物、飲料など、多岐に渡っている。これらの屋台が路上に立ち並ぶ光景は壮観であり、バンコク都の屋台の1日の総売上は一体どのくらいになるのか、想像もつかない。もし、屋台がなくなったら、タイの経済は立ち行かなくなることは間違いないだろう。いや、単に経済効果だけでなく、屋台は文化としても立派に成立していると思う。
日本からの旅行者にも是非屋台を経験して欲しいのだが、「せっかくの旅行でお腹を壊したら大変だ」、「クルマが行き来する横で食事なんかしたくない」等の理由で、屋台のハードルが高いのも事実である。屋台と一口に言っても千差万別なので、私もネット情報や外観、客の入り具合で店を選ぶし、時にはお持ち帰りにする、といった工夫をしているが、お腹を壊したことは、幸いにしてまだありません。
本ブログでは、お勧めできるお気に入り屋台や食堂も、少しずつ紹介して行きたい。記念すべき第一回はカオマンガイのヘンヘン(Heng Heng)である。カオマンガイとは、茹でた鶏肉を鶏出汁で炊いたご飯に添えたシンプルな一品で、タイ語では、カオ(米)マン(脂っぽい)、ガイ(鶏)の意味。中国の海南鶏飯が原型であり、シンガポールのチキンライスとは姉妹だが、進化の方向が少し異なる。つるんとした皮付きのしっとりした鶏肉の切り身は、それだけで美味しいが、そこにナームチムという生姜の効いたタレをかけて食べるのが頗る美味い。このナームチムは店毎に個性があり、作り方は秘伝とも言うべきものである。揚げた鶏肉を乗せるカオマンガイトート、茹で鶏と揚げ鶏が半々のカオマンガイパソムというアレンジもあり、揚げた鶏肉は甘いナームチムとの組み合わせになる。
カオマンガイの主役は鶏肉であるが、それ以上に、私は鶏出汁で炊いたご飯に目がない。うっすら茶色に炊き上げられたご飯は、鶏の旨みを吸って、それだけでおかわりができそうなくらいである。このご飯を頬張り、鶏ガラスープで追い討ちをかけるととても幸せな気分になること間違いなし。美味しくて、ついリピートしたくなるのだが、付け合わせが胡瓜の輪切りしかないので、別途野菜料理で補填することをお勧めする。
かようにカオマンガイは魅力的な料理であり、屋台の数も星の数ほどあるが、美味い、不味いがはっきりしている。シンプル故に素材の差、腕の差が明確に出て、誤魔化しが効かないからだろう。私が推すヘンヘンは、デパートやショッピングモールが集中するBTSプロンポン駅の真下、エンポリアムデパートの前に、夕方から出現する屋台である。屋台の側にはテーブルと椅子があって、そこで食べることもできるが、持ち帰りも可能で、食事待ち、持ち帰り待ち、二つの行列ができることも珍しくない。一人前が50バーツ(210円)、大盛りが60バーツ(250円)であり、茹で鶏だけの販売もしている。バンコクでカオマンガイと言うと、ミシュランのビブグルマンを獲得している「ピンクのカオマンガイ」(通称)が、どの旅行ガイドブックでもモテ囃されているが、私の見解では、味も量も値段も断然ヘンヘンが勝っている。
近年、道路占拠や衛生面の問題で、曜日や場所に出店規制がかかり、バンコクの屋台は減少傾向にあるが、私としては永く続いて欲しいと願う。屋台のないタイは、もはやタイとは言えない気がするのだ。
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