いわゆる袴田事件の再審開始が決定した。
静岡地裁は「拘置を続けることは耐え難いほど正義に反する」として
無罪判決前の釈放という異例の措置をとった。
死の恐怖にさらされながらの長い拘置生活で精神を病んでしまったという袴田巌さんが
ついに自由の身になれるのだから、
テレビ各社はさぞや取材に殺到するだろうと思っていたのに
夕方のニュースではどこもさらりと流してあまり時間を割いていない。
どうしてだろうと不思議だったが報道ステーションを見てその理由がわかった。
テレビ朝日が独占取材をしていたのだ。
静岡地裁から袴田さんを迎えに東京拘置所へ向かうお姉さんが乗った新幹線の座席の隣には
テレビ朝日のアナウンサーが座り、
ケーキとビールを食べさせるとか布団に大の字で寝かせるとか話している。
拘置所を出た後袴田さんは駐車場のような場所でテレビ朝日の独占インタビューに答えた。
そして、デラックスなホテルの一室に案内される。
約束通り冷やしたビールやケーキが用意されていて、
大きなベッドに横になるようにとアナウンサーがしつこく促す。
袴田さんはベッドに寝ても事態が良く呑み込めないのか
なかなか要求通り大の字になってくれない。
ふかふかでしょう?と何度も何度もアナウンサーは尋ねるのだが、
テレビ慣れしていない袴田さんはうまく反応してくれない。
食欲がないらしく用意したビールもケーキも食べられない。
なんだこの番組は。
報道ステーションは一体何を考えているのか。
私達が報道によって知りたかったのはこういうことなのだろうか?
不幸な人間に施しをして上から目線で取材しているようでたまらない。
言われるままにベッドによじ登る袴田さんの黒い靴下には穴があいていた。
何だかとても哀しくてならなかった。
私も思っていました。
テレビ報道、ニュース、新聞も過度に信用してはいけないとわかっているのですが
視覚的にわかりやすく演出された報道や
意識的に作りこまれている世界を見せられると
うんざりしてしまいます。
作り手も、受け手も単純な人間が増えてきているのかも知れません。
テレビ局はもっと劇的な釈放映像を期待していたのでしょうから思惑通りにならずさぞ残念だったことでしょう。
確かに作り手が単純になったと私も感じます。
ニュースの見せ方など本当にどれもステレオタイプで、お馬鹿な視聴者はこういう風に伝えれば簡単に感動したり涙を流したり怒ったりするんだとたかをくくっているようにも感じます。
私達一般大衆も呑気にいつまでも愚かで単純ではいられなくなりそうです。
でもお姉さんは、ホテルの部屋でカメラを回しあれやこれやと指図する番組スタッフを不快には思っていないようでしたね。むしろ嬉しそうでした。
スタッフの求めに応じて笑顔いっぱいで袴田さんに声をかけるお姉さんは、自分たちに向けられる善意や支持を素直に受け入れているように見えました。
その姿に、これまでお姉さんが辿って来た道の苦しさ辛さが思われて、私はさらに哀しくなってしまったのです。