アンダンテのだんだんと日記

ごたごたした生活の中から、ひとつずつ「いいこと」を探して、だんだんと優雅な生活を目指す日記

アウシュビッツと表裏一体の大罪

2017年07月27日 | 生活
某友人が今年、アウシュビッツを見に行くというので、つい先日読んだ
「ぼくはナチにさらわれた」(アロイズィ・トヴァルデツキ著)
という本を思い出しました。旅行の前にぜひ読んでおくよう推薦したく、下記に詳しく紹介します。

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* * *

ユダヤ人(など)大量虐殺については日本でもかなりよく知られているが、その発想と表裏一体ともいうべき「レーベンスボルン」政策についてはほとんど知られていないのではないだろうか。私も上記の本を読むまで知らなかったし、よしぞうも、それと(かなり世界史好きの)その友人も知らないと言っていた。

アウシュビッツなどの強制収容所については、もちろん亡くなった人の数からも殺し方からも、人類史上屈指の大罪だけれど、そもそもその虐殺に至る動機が許しがたくグロテスクなものだ。つまり、優れた人種と劣った人種…生きる価値がないどころか地上から抹殺したい人種に分ける考え方である。

たとえば昔、スペイン人が南アメリカの人々を虐殺したり支配したりしたとき、それは確かにそこの人々を自分たち(人間)と違う、価値のないものとみなしていて、だからこそ簡単に殺せたのだろうけれど、主目的は経済合理性であって、その人たちが地上からいなくなってほしいと強く願っていたわけではない。というか植民地で働く人がいなかったらむしろ困る。だからどうだというか、許されるわけはもちろんないけれど、発想の気持ち悪さはナチスのほうがずいぶんとうわてであるような気はする。

ユダヤ人大量虐殺は、地上から人類を滅ぼすことを目的としているわけでなく、彼らに代わってドイツ民族が繁栄することを目指していた。それがすなわち「レーベンスボルン(生命の泉)」というわけだ。

始めのうち、それは「産めよ殖やせよ」的な政策で、ドイツ人将校にたくさん子どもを作るように奨励(強制含む)したり、「人種的に正しい」けれど経済的に困窮した母子家庭の人が身を寄せられる施設を作ったりしていた。母子保護施設…ある意味人道的!? ただし人種限定の。

しかしそんなんじゃたいして捗らないので、今度は占領先のポーランドや北欧などから、「ドイツ人的な」容貌を持つ子どもを拉致してきてドイツ人として育てるという強硬手段に出た。発想がぶっとびすぎで、もはやどこから突っ込んでいいかわからないけれども、とにかくその数がすごくて、25万人とも。

さらってくるのは4歳から10歳くらいの子ども。金髪青い目であることは絶対条件で、その他骨格などから「ドイツ的」な条件があるらしい。拉致された子どもたちは名前を取り上げられドイツ人的な名前を付けられ、ドイツ人家庭に引き取られる。虐殺目的ではなくて優れてドイツ人的なドイツ人を育てようとしているわけだから、育ての親たちからはかわいがられ、学校教育も(それが偏っているのはともかく)しっかり受けさせられる。

それなら、子どもを突然さらわれた親のほうはたまったものではないが、子どものほうはその後すくすくとドイツ人として育ってそれぞれの幸せを…というわけにはやっぱりいかない。微妙な時期に無理やり母語を切り替えされられることも、親から引き離されることも、あれこれの絶大なマイナス影響があるため、エリートを育てるどころか、高等教育まで至らず、体格的にも標準未満ということが多かったようである。(というかうまくいくと思うほうがどうかしている)

そのためか、当事者の手記にはなかなかまとまったものがなく、断片的であったり曖昧だったりという状況だそうだ。

冒頭に挙げた本は、4歳のときにポーランドから拉致された男性の手記。結果として高校・大学にも進学し、これだけまとまった手記が書けるようになったのは、元々の素質はもちろん、さらわれた時期が早めだったため、ドイツ語を母語とする言語形成がうまくいったこともあるのだろう。

けれど、ドイツの中でもドイツ的に、それこそポーランド人を侮蔑するように育てられた彼が、戦後実は自分がポーランド人であることを知らされ、ポーランドの高校に転向するあたりのアイデンティティーの危機は、もうほんとに背筋が寒いどころではない。ポーランド語はわからない、回りはこれまで自分が全力でさげすんできたポーランド人ばかり、自分はずっとポーランドを苦しめてきたドイツ人のような容貌で、ドイツ語をしゃべり、でもポーランド人(o_o)

そんな怖すぎる状況にあってもポーランドの両親の元に戻ることを選んだ彼の心情は、実は手記を読んでもあまりよくわからないところがある。きっといろいろといろいろと、ありすぎるくらいあったのだろうけど、一部は自分でも言語化できなかったのかもしれないし、一部はポーランドで最初出版するときの検閲で削除されたまま散逸したものもあるようだ。そういう意味でも人間の罪深さがただただ痛い…

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